焼戻し
『ねじの強化書Vol.35』でお話ししたように
一般的に流通している中強度以上のボルト、
強度区分でいうと8.8以上のボルトは焼入れを施して鋼を硬くします。
しかし、焼入れしたままでは硬くはなりますが
脆くて壊れやすく、つまり粘り強くないので
焼入れの直後に再加熱して鋼を粘り強くする必要があります。
この粘り強さのことを「靭性(じんせい)」といい
靭性を上げることによって伸びやねじりに対する耐久性を高めます。
これを「焼戻し」といいます。
また、焼戻しの他の目的として、靭性を上げる以外に
内部応力(※1)の除去があります。
焼入れをすることにより鋼の内部に応力(※2)が蓄積され、
想定していた強度に足りていない状態になります。
その結果、思わぬときにボルトが変形・破断することがあります。
そのようになることを焼戻しによって改善します。
さらには、内部応力が鋼に及ぼす影響として
程度によって鋼に施しためっきが剥がれやすくなります。
その結果耐食性が落ちる、
腐食環境下において鋼に割れが生じる場合があります。(※3)
さて、焼戻しには「高温焼戻し」と「低温焼戻し」があり、
ボルトに施すのは多くが高温焼戻しです。
この高温焼戻しは「調質」ともいわれています。
焼戻しの処理温度はどれぐらいかというと
「鋼のAc1変態点より下」でS45Cの場合、600~700℃、
そして冷まし方は「急冷」です。
ということで、焼戻しをごく簡単にまとめると、
①鋼を粘り強くする
②熱するのはAc1変態点以下の温度まで
③焼入れとセットで行なうことがほとんど
④内部応力を除去する目的で行なうこともある
⑤調質とは高温での焼戻しである
となります。
これらの5つが焼戻しのポイントです。。
※1…残留応力ともいいます
※2…外力に抵抗する力
※3…腐食環境下における割れについては、
『ねじの強化書(Vol.26)』で解説しております。
併せてお読みいただければと思います。
今回は以上です。
次回もお楽しみに!