表面熱処理は、浸炭焼入れや窒化のように硬化に至る元素を加熱することによって表面から染み込ませる方法と、高周波焼入れのように硬化させることが出来る素材の表面だけを加熱するというふたつの方法があります。
Vol.39では浸炭焼入れについて、Vol.40では窒化についてお話ししましたが、今回は高周波焼入れについてお話しします。
高周波焼入れ
熱処理によって硬くしたい製品に高周波コイルという銅線を巻き付け、電流を流すことで熱を加えて表面のみ硬くする熱処理です。
焼入れや焼戻し、浸炭など多くの熱処理が火を熱源とするのに対し、高周波焼入れは電気を熱源とする熱処理で、シャフトや歯車には多く利用されていますが、ネジ部品に利用されることはそれほど多くありません。
では、ネジ部品に利用されるのはどのような場合が多いかというと、「部分的に硬くしたい場合」です。
なぜ部分的に硬くする必要があるかというと、例えばボルトの先端部や頭頂部で相手物を押さえたり、支えたりする、かつ相手物が硬い場合、その硬さによってボルトが変形したり割れたりしないように、また、摩耗したりしないようにするためです。
どうせ硬くするなら焼入れや焼ならしといった一般熱処理でもいいのではないかと思わないでもないですが、高周波焼入れを選ぶのにはそれなりの理由があります。
まずは、押さえたり支えたりする相手物が硬くても、ナットなど嵌合するメネジをそれほど硬くしていない場合。
こういう場合、ボルト全体を硬くしてしまうとメネジに負担が掛かって、最悪の場合にはメネジが壊れてしまいます。
もちろんコストに余裕があればナットなどのメネジも熱処理などで硬くすればいいのですが、そうでない場合には、高周波焼入れで必要な部分、ここではボルトの先端部や頭頂部のみ硬くします。
また、ボルトの頭頂部を下に向けて機械や装置の脚部として使う場合は、ボルトが直接床面に接するのではなく、ボルトの頭頂部を受けるシートというか土台のような部品が存在することがほとんどです。
こういう場合にもボルト全体を硬くしてしまうとそれと引き換えに靭性(じんせい)が低下することになり、予期しない振動や衝撃が加わるとそれらを受けることが出来ず、最悪の場合にはボルトの折損につながります。
そうならないために、この場合においてもボルトの先端部や頭頂部のみ高周波焼入れで硬くして、ボルトの軸部にはある程度の靭性は残しておきます。
というわけで、これらのようなボルトの使い方をする場合には部分的に硬くする高周波焼入れがどちらかというと適しています。
参考までに、JIS規格品で高周波焼入れをしたネジ部品があるのかというと、無いです。
おそらく。
今回は以上です。
次回もお楽しみに!