こんにちはー、りびぃです。普段は生産設備の設計の仕事をしています。
私がお客様から生産設備の導入のご依頼をいただく際は、自動化による生産性の向上や省力化・省人化といった目的であることが多いです。
具体的にどの程度の生産量を狙うかに基づき、それを達成するために装置の仕様や構成を決定していきます。
その際はついつい、設計する自動化装置の動作原理やサイクルタイムなどばかりに気を取られがちですが、それらを検討する際に同時に考えて置かなければならない要素が他にあります。
そのうちの一つが「ポカヨケ」です。
ポカヨケは「ポカミスを避ける」を略した言葉であるのですが、トヨタ生産方式の「自働化」を具現化する一つの方法になっているほど重要な要素でもあります(ちなみに海外の生産現場でも「POKA-YOKE」として通じる言葉でもあります)。
このポカヨケを生産設備の仕様決定段階から考えておくことで、生産設備の使いやすさ、安全性、生産効率などの観点から多くのメリットを得ることができるようになります。
そのため、生産技術、オペレーター、品質保証、保全、設備設計などの方々にとっては、このポカヨケについて理解をしておくことは必須であるとも言えます。
そこで今回は、ポカヨケとはなにかについてや、ポカヨケを導入したときのメリットについてわかりやすく解説をしていきます。
ポカヨケとは
ポカヨケとは、生産現場において作業員の誤作業や誤操作などのようなうっかりミス(ポカミス)を対策するための概念や仕組みのことを言います。
ポカヨケは1961年に日本能率協会のコンサルタントだった新郷重夫によって生み出され、名古屋の山田電機においてプッシュボタンの組み立て工程でバネの入れ忘れというヒューマンエラーによる不良を改善するために行った施策が起源だと言われております(ITMedia、ポカヨケ(ぽかよけ)より)。
どんなに熟練の作業員であっても作業手順の間違いや部品の取違え・取忘れなどのようなうっかりミスはどうしても発生してしまうものですし、それに対して「今後は気をつける」というのはあまりにも精神論的で、再発防止策としてはあまりにも不十分です。
そのため精神論ではなく仕組みを工夫することで対策をしようというのがポカヨケのアプローチになります。
その後ポカヨケは、トヨタ生産方式の柱の一つである自働化(異常が生じた際に自動で止まる(止める)ようにすることで、不良品の発生を防止すること)を推進する手法の一つにもなるほど、各生産現場で重要視されるようになっていきました。
ポカヨケが今でも重視されている理由
ポカヨケ自体は何十年も前に考えられたものではありますが、現在の生産設備の立ち上げや運用においても変わらず重要なものであると認識されています。
その理由の一つが「今でも人間による作業が発生している現場が多いから」です。
昨今、デジタル技術や自働化技術の進化に伴ってDX(デジタルトランスフォーメーション)が掲げられており、展示会に行けば多くの最新技術や提案がなされていますが、実際の生産現場では展示会の様子とは大きく乖離していることがあります。
そもそも生産ラインの柔軟性や生産規模などから費用対効果を検討した結果、自動機械を導入するのではなく人手で作業させる方がよいとされている現場は多くあります(より詳しく知りたい方はこちらの記事へ)。
比較的自働化が進んでいる工業製品の生産現場でさえ、工程が完全自働化・無人化されていることはほとんどなく、原材料やワークの投入、工場内の一部ワーク搬送などにおいて人手で行われていることがあります。
そういった人手の作業が介在する箇所においてはヒューマンエラーが発生するリスクがどうしても発生してしまうのです。
理由の2つ目は「多品種少量生産が行われる現場が増えてきているから」です。
従来は「製品を作れば売れる」という市場が主流であったため、生産設備としては「部品を可能な限り標準化しつつ、大量に生産可能であること」でした。
ところが現在では消費者のニーズが多様化してきたことによって、標準化された大量生産品では市場の需要を満たしきれなくなってきてしまいました。
さらに「製品ライフサイクルの短縮化」も多品種少量生産を後押しする形になりました。
製品ライフサイクルとは「製品が市場に投入されてから市場で売れなくなるまでの期間のこと」をいうのですが、毎年のようにスマホの新作が販売されるように、昨今では製品ライフサイクルが非常に短くなってきているのです。
こういった背景があり、生産現場では多品種少量生産が求められるようになってきたわけですが、製品が開発される度に一から生産設備を立ち上げるのでは、
- 工場スペース的にも不都合
- 設備を稼働させたところで、過剰在庫が発生してしまうリスクが高い
- 設備投資額を回収しきる前に市場のニーズが終わってしまう可能性がある
- 設備立ち上げに時間がかかるため、新しい市場の要求に素早く対応するのが困難である
などのデメリットが生じます。
そのため、一つの製造工程で多品種の製造ができるような対応が求められるようになってきました。
これにより汎用機である産業用ロボットを活用して対応することも増えてきた印象ですが、産業用ロボットでは困難な工程においては専用機を導入したうえで、製造品種の切り替えに伴って一部部品の付け替え(ジョブチェンジ)を実施することで対応することも多いです。
ジョブチェンジによる部品の付替えは人手での作業にならざるを得ないこともよくありますし、生産する品種の種類や、ジョブチェンジが必要な箇所が多くなるほどヒューマンエラーが発生する確率はどんどん上がっていきます。
そのため、現在の生産現場においてもポカヨケを導入しておくことは非常に重要なのです。
ポカヨケ導入のメリット
生産品質・生産効率の向上
ポカヨケを導入すると、おそらく皆さんの予想以上に生産品質や生産効率を向上させることができます。
まず一番わかりやすいところについて説明すると、単にヒューマンエラーによるミスが減少するわけですから、製品の品質が向上させることができますし、製造される製品のうちOK品の割合が増えることで生産効率も向上します。
ただ、効果はそれだけではありません。
仮にもしポカミスが発生すると、
- 作業の手戻りが発生する
- NG品が製造されてしまった場合、その流出を防ぐためにいったん作業を停止して、NG品を回収する必要がある
- NG品を回収した後に、正しい手順で装置を再起動・復旧させる必要がある
- ミスが発生したことについて班長等に報告するための時間を取られる
- ミスをしないよう気をつけたり、確認をしながらの作業になるために、作業スピードが落ちる
など、想像以上に時間が失われることになります。
さらには、どうしても人間が作業する以上ミスが再発し、それに起因して再び同じように対応のための時間が取られていくという悪循環が発生します。
これに対してポカヨケが効果的に導入されれば、このようなことがなくなりますので、想像以上に生産効率を向上させることが期待できるのです。
作業者の安全性向上
ポカミスは単に不良品を製造してしまうとか、ミスをリカバリーするために時間が取られるということだけではなく、時には作業者に危険を及ぼすケースもあります。
例えば部品をプレス機にセットして起動ボタンを押した直後に、ふと部品の向きが間違っていることに気づいて頭や手を伸ばしてしまうと、大きな事故の発生に繋がります。
そのため、例えばポカヨケとして、
- 両手でボタンを押している間しか機械が動作しないようにして、手の挟まれを防ぐ
- 部品を投入する間口にシャッタを設けて、シャッタを閉めないとプレス機が作動しないようにする
などを実施することで作業者の安全を守ることができます。
このようにポカヨケは、作業者の安全性を確保するためにも重要な役割を果たすのです。
教育工数の削減
製造業の現場ではよく人手不足が発生しており作業者の採用が行われているのをよく見かけます。
しかし、うまく現場の仕事が回るようになるためには、単に人材を増やすだけでは効果はさほどありません。
作業内容を作業者に教えたり、作業者が作業に慣れてもらうなどのようにある程度の教育期間が必要になります。
しかし、
- 作業内容が複雑である
- 製品の品種ごとに作業内容が異なる
- ジョブチェンジでの部品の付替えがある
という現場においては、長い教育工数がかかってしまいます。
その対処方法としてマニュアルやチェックリストを作成している現場も多いのですが、
- 結局は品種ごとにマニュアルの内容を覚えなくてはいけない
- 「チェックリストの作成」という新たな作業が発生し作業効率が落ちる
- マニュアルを読まなかったり、内容を理解することができず、結局は直接指導が必要という場合も多い
- 新しい品種を製造することになる度にマニュアルやチェックリストの内容を更新しなくてはならない
といった問題があることから、あまり効果が上がらないということがほとんどです。
それに対してポカヨケを導入し、作業員が作業するべき内容や作業ミスの原因を直感的にわかりやすくしたり、作業員がミスをしても悪影響が及ばないようにしておけば、教育工数を最小限にしつつも最大の効果を得ることが期待できます。
昨今では労働者不足により、現場のオペレーターとして外国人労働者や現場での作業に不慣れな人を雇用せざるを得ないケースが増えてきています。
さらには、作業員の転職や辞職などにより作業員の入れ替わり頻度が増えてきてもいますから、ポカヨケの導入によって教育工数を削減しつつ、作業難易度を下げていくことは非常に重要であると言えるでしょう。
コスト削減
ここまでポカヨケ導入のメリットとして「生産品質・生産効率の向上」「作業者の安全性向上」「教育工数の削減」を説明してきましたが、これらによって結果的に製造コストを削減することができるようになります。
例えば、ポカミスが起こった際に発生する、
- 作業の中断
- 作業の手直し、出戻り
- 機械の復旧
- 原因究明
- 再発防止(マニュアル・チェックリストの作成)、啓蒙・教育活動
などの追加作業は、すべて人件費としてかかってくるようになりますが、ポカヨケが導入されればその人件費を削減することができます。
また作業の安全性が向上すれば、
- 安全教育や訓練
- 安全作業の監視、管理
などのコストも削減することができます。
さらに作業員の方々は「安全性の高い環境で仕事をしたい」と感じるのが当然だと思いますので、作業員のモチベーションアップや新規作業者の獲得に貢献できる可能性があります。
ポカヨケ導入による効果はあらゆる側面でのメリットに繋がりますので、製造工程の立ち上げの際や自動機導入の検討段階においてしっかりと検討するようにしておきましょう。