こんにちはー、りびぃです。
普段は生産設備の設計をする仕事をしています。
機械や製品が製造されたり、稼働しているのはいわゆる「工場・工事現場」ですが、皆さんは小さい頃に学校の先生から「工事現場に入ってはいけません」と言われた経験はありませんか?
「工事現場には危険がいっぱいあるから・・・」というのは私も幼い頃言われ続けていましたが、製造業で仕事をするとまさにこの「工場・工事現場」に入って仕事をするということでもあります。
作業員や職人の方はもちろんですが、例えば普段はデスクワークをしている私のような設計者や営業の方であっても、たまに「工場・工事現場」に入って見学をしたり、実際に仕事をすることがあります。
ですがこのような現場に慣れていない人が工場・工事現場に入ると、知らずのうちに危険を冒してしまい、その現場で働いている人から厳しく注意を受けることがあります。
そしてもし怪我をするようなことがあれば、
- 応急処置のために現場作業を止めなければならない
- 怪我をした本人が健康を損なう
- 場合によってはお客さんとの信頼関係を失う
という事態になります(私の知人はお客さんの工場に訪問した際に怪我をして労災認定され、お客さんや社内から厳しく注意を受けたとのことです)
多くの現場では「ゼロ災を1日でも長く維持しよう」という活動がされている中でこのようなことが起これば、日々安全意識を持って働いている方たちの気持ちを無碍に扱うことにもなりかねません。
そうならないためにも、もし皆さんが工場や工事現場に訪問・見学する機会があるのであれば、現場では常識とされている安全ルールについては最低限知っておきたいですよね。
そこで今回は、現場では常識となっている安全ルールについてわかりやすく解説をしていきます。
現場に入る際は正しい装備を
現場に入る際には正しい装備をすることが義務付けられていますが、ここではその装備品について、重要度が高い順に3つに分けてご紹介していきます。
まず1つ目の、最も優先順位が高い装備品は「ヘルメット」「安全靴」「保護メガネ」です。
これらは「単なる工場見学」をする場合でも着用を義務付けられる場合が多い印象です。
現場では、機械や設備の鋭利な部分や角が出っ張っている所がいたるところにあったり、高所作業をしている人がうっかり下に工具などを落としてしまうなどが発生するので、頭部を守るためにもヘルメットの着用は非常に重要です。
安全靴についてですが、これは靴の中に鉄板が入っているため、フォークリフトなどの重量物が転倒した際、最悪足先に乗っかってしまったとしても、足を守ってくれる役割があります。
また安全靴には丈夫なインソールも入っているため、誤って釘やガラスの破片などの鋭利なものを踏んでしまったとしても、靴の中へ貫通しないような作りになっています。
そして安全メガネについてですが、現場に行くと「粉状の原材料」や「ガラスの破片や金属の切粉(特に加工現場)」などが空気中を舞っていることがあります。
これらは単なる塵や埃とは違い、目に入った途端に大きな怪我に至ることも珍しくありませんから、保護メガネの着用は想像以上に重要です。
2つ目に重要な装備品は「作業服」です。
これは作業中の様子を間近でみたり、実際に作業員の一人として入るのであれば必要になるケースが多いです。
作業着は単なる「汚れてもいい服」ではなく、生地が丈夫に作られていることでやぶれたりボロボロになったりしにくい作りになっています。
また作業服によっては「鋭利なもので引っかいても生地が破れないもの」や「溶接やグラインダの火花が付着しても燃えにくいもの」などもあります。
3つ目は「革手袋」「脚絆」です。
これらは比較的優先度は低いものの、現場作業員として入るのであれば必要になることもあります。
これらは特に機械への巻き込まれを防ぐ効果が高いです。
製造業の労災の中でも非常に多いのが「機械への巻き込まれ」によるもので、革手袋は手を、脚絆は作業着のズボンの裾の巻き込まれを防いてくれます。
現場には高速回転するモータや工作機械が扱われているため、ほんの一部が巻き込まれるだけで大事故に繋がりかねません。
そのような現場であれば必要になるという印象です。
また革手袋や脚絆は非常に頑丈な素材でできているため、手や足首を鋭利なものから守ったり、溶接など火花から守るうえでも有効的です。
注意点として、軍手の使用は禁止されているケースが多いです。
というのも軍手は生地が頑丈ではなく生地がほつれやすいため、回転部に簡単に巻き込まれていきやすく危険性が高いためです。
革手袋を軍手で代替することは一般的にできない点は覚えておきましょう。
その他現場によっては追加の装備品、特殊仕様の装備品が必要になることもしばしばありますが、一つでも忘れると現場に入れさせてもらえないという場合がほとんどです。
ですので、訪問前に必ず確認するようにしましょう。
安全のための手続き
特に作業員として現場に入る際には、その現場で決められた手続きを踏まないとルール上作業を行うことができない場合が多いです。
ここでは私の経験を元に、一般的に行われている手続きについて紹介します。
安全教育
初めてその現場に入る際は、作業員全員が安全教育を受講しなければなりません。
安全教育とは、その現場の安全衛生管理者が実施している講習のことでして、この講習を通じて修了証が発行されなければ、どんなに納期が差し迫った事態であったとしても現場に入ることができません。
安全教育の内容は基本的には座学で、その現場で過去に起こった災害事例や現場特有のルールなどについて共有されます。
場合によっては座学終了後に筆記試験があったり、体力テスト実施する会社もあります(もちろん合格できなければ修了証が発行されません)。
安全教育の実施形態は様々であり、決められた曜日・時刻・場所でしか受講できないという会社もあれば、オンラインで受講し署名さえすれば完了でよいという会社もあります。
訪問する現場がどのような方式化については事前にしっかり確認するようにしましょう。
朝礼
現場で作業をする際は、毎朝朝礼が実施されます。
朝礼では、まずは「現場作業員の装備品が適切に揃っているか」「体調は良好か」など、作業者としての適性をチェックされます。
続いては、現場監督者から作業者への作業指示がなされます。
例えば製品の製造現場であれば、
- 今日中にどの品種を何個ずつ生産するのか
- 機械の故障などにより臨時対応する作業はあるか
- 業者のメンテナンスなどにより、作業の中断が必要な時間帯はいつか
などについて。生産設備の据付現場などであれば、
- 今日の作業目標はなにか
- 何の部品がいつ頃搬入されるのか
- 何をどの順番で据付を行うか
といった内容です。
ここで重要なのは「作業者は、作業指示がされていない作業は禁止されている」ということです。
もし作業指示外の作業をした場合やそれによって事故やトラブルに巻き込まれた場合には、責任を問われたり、現場から出禁にされるといった事態になってしまいます。
基本的にはあらかじめ作業内容が計画されておりそれに沿って当日の作業指示が行われていきますが、作業当日になって急遽計画が変更になることもあります。
特に屋外作業となると、
- 雨が降っている中で溶接作業をすると溶接欠陥の原因になるので作業中止になったり、
- 台風の予報が出た場合に強風によって資材や備品が飛ばされたり倒壊しないよう養生や固縛を強化する作業が必要だったり、
などが発生します。その際は変更が発生する度に作業指示がされその内容が現場の掲示板に貼り出されますので、作業者はそれをしっかり確認する必要があります。
さらに大型設備の据付工事の現場であれば、複数案件・複数業者が同日に工事することがあるため、それに関する注意事項が朝礼にて共有されます。
例えば、
- 「A業者が9時~11時までxx付近で作業を行うので、他の業者は作業禁止」
- 「B業者が13時から大型装置の搬入作業を行うので、いつも使っている動線は通行禁止で、遠回りで行き来してほしい」
などのような情報です。
現場によっては2交代勤務で作業が行われることもありますが、その場合には夕礼を実施し、昼勤の作業者と夜勤の作業者とで情報のすり合わせを行ったりもします。
こういった重要事項が毎日のように共有されますので、もちろん遅刻は厳禁となります。
KY活動
KY活動とは「危険予知活動」の略で、作業中に潜在する危険を事前に把握し、事故や災害を防ぐための安全活動のことをいいます。
災害やトラブルを起こってから対応するのではなく、起こるリスクを考慮して未然にリスクを減らすために行われます。
具体的には作業指示書の内容を踏まえたうえで「〇〇の作業をするときにxxのような怪我をするリスクがあるので、作業員同士の声掛けをしっかり行う」などのように実施されます。
場合によっては、作業前の準備として事故の予防措置を実施することも必要だと判断されることがあります。
またKY活動の最後には「ご安全に」という掛け声をすることが、全国の現場で共通となっています。
このKY活動は朝礼の中で行われることもありますし、KY活動用の用紙を作成して現場掲示板へ貼り出すことも行われます。
安全のルール
ここでは「わざわざ現場で教えてくれることはないけれど、暗黙の了解的に決められている安全ルール」について紹介します。
作業者だけではなく、現場の管理者・訪問者・見学者でさえも守るべきルールばかりですので、しっかりと認識しておくようにしましょう。
指差呼称
指差呼称とは、指差しと「〇〇ヨシ!」という声出しをしながら安全確認をすることです。
よく電車の車掌さんがお客さんの安全確認や信号の確認をする度に指を指しながら「〇〇ヨシ」としているのが有名ですが、これは工場や製造現場でも一般的に行われています。
工場で最も指差呼称が行われている場面は「工場敷地内の横断歩道を渡るとき」です。
屋外の工場敷地では乗用車の他にも多くの重機やフォークリフトが行き交っており、事故が発生したときの影響が甚大になりやすいです。
そのため指差呼称を行うことで、確実な安全を確かめてから横断歩道を渡ることが、多くの工場で義務付けられています。
また製造現場では、自動機を運転させる直前の最終的な安全確認の際にも指差呼称が行われます。
これによりヒューマンエラーを削減する工夫がなされているのです。
歩行者用通路以外の歩行禁止
工場の構内には床に描かれたペイントなどで、歩行者とそれ以外とで導線が分けられております。
そのため、歩行する際にはその通路を通るようにしなければなりません。
歩行者用通路以外の箇所は、例えばフォークリフトが原材料や製品の運搬をしています。
フォークリフトの運転手は構内では基本的には徐行しつつ、安全を確認しながら走行していますが、大きなものを運搬している最中ですと周囲の状況を確認しづらかったり、突然バックをすることもあるので不用意に歩行者用通路からはみ出ることは非常に危険です。
また最近では工場構内をAGVが走行しているケースも増えてきており、そのAGVとの接触によって事故に巻き込まれないためにも、決められた導線内を歩くようにしなければなりません。
もしどうしてもフォークリフト等の通路を横断しなければならない場合には、指差呼称により左右を確認することが必要です。
クレーンの吊り荷の下に入るの禁止
レッカー車やホイストクレーンなど、工場内には多数のクレーンが配備されており、重量物の運搬などをしています。
その際、もし皆さんがクレーンで荷物を吊っているのを見かけたら、絶対にその吊り荷の下に入ってはいけません。
吊り荷の下とは一般的にクレーンのシャックルを頂点とする四角錐の範囲のことをいいます。
吊り荷の下に入ってはいけない理由は主に2つあります。
1つ目は吊り荷の落下のリスクがあるからです。
例えば、玉掛けがしっかり行われていなかったり、ワイヤーやナイロンスリングの劣化によって破損してしまったり、機械の誤操作などで、吊り荷が落下してしまうことがあります。
過去には、落下した吊り荷が人に直撃したことによって労働災害にまで発展した事例もあります(厚生労働省, 労働災害事例)。
また直撃ではなくとも、吊り荷が落下した際に飛んできた破片や跳ねた小石などにぶつかってしまうことでも怪我に繋がる恐れがあります。
2つめは「クレーンで荷を吊る際に、荷が大きく振れることが多いから」です。
クレーンでの荷の運搬において最も危険な瞬間は、実は「荷が地面から浮く瞬間」です。
これはクレーンで荷を吊る場所の問題なのですが、理論的には「荷の重心を狙って吊り上げれば荷が振られることはない」のですが、実際「荷の重心をピンポイントで見極めて荷を吊り上げること」は極めて難しいのです。
そのため、荷が地面から浮く瞬間に、荷のバランスが崩れたり、ブランコのように左右に大きく振られることは頻繁にあります。
その際に吊り荷の近くにいると、振られた荷が直撃するリスクがあり大事故に繋がりかねません。
また、屋外での作業の場合には強風に煽られて吊り荷が振られるという危険性も十分にあります。
クレーンで荷を吊り上げた時点では吊り荷の下にいなかったとしても、気を抜いているとクレーンが移動してくる際に自分が吊り荷の下に入ってしまうことは多いです。
ですから荷を吊っている作業を見かけたら、荷が下ろされるまでクレーンの動きから目を離さないようにすることが重要です。
近道の禁止
歩いてみるとわかるのですが、工場・現場内の導線はところどころで遠回りをさせられることが多いです。
ついつい近道をしたり、ちょっとした柵を乗り越えたりしたいと思いがちですが、工場・現場内ではこのような近道は禁止です。
導線が遠回りになっていることには、基本的に理由があります。
よくある理由の1つは「安全対策が未整備だから」です。
例えば仮設足場の通路の場合、通行が禁止されている通路では十分が補強されていなかったり、ボルトが仮止め状態だったりします。
あるいは、足元に大きな開口があり、転落の危険性が高いなどという場合があるのです。
もう一つの理由は「他の作業エリアに無断で立ち入ることになるから」です。
工事の現場では作業前に必ず「いつどのエリアで作業を行うか」という作業区画を報告する義務があります。
これは他の業者や現場作業者との作業干渉を回避したり、事前に危険を警告するためでもあります。
そのような中で不用意に導線を近道すると、それは事前に周知されている作業エリアを超えることにもなりかねないので非常に危険です。
自動車を運転している人は、道路に突然人が飛び出してきて思わず急ブレーキを踏んだ経験を一度はされた事があると思いますが、近道をする行為はこのような危険にさらされることになるのです。
上下作業の禁止
上下作業とは、同じ作業エリア内で作業者が上下(上階や高所での作業と、その真下や近くの低い位置で行われる作業)の位置関係で同時に行われる作業のことをいいます。
現場作業において複数箇所に分かれて作業すること自体は作業効率を上げるために重要ではありますが、上下作業になるようなことはしてはいけません。
危険な理由は「高所で作業している人が誤って部品や工具を落下させてしまった場合に非常に危険だから」です。
たとえ1kgに満たない工具でも、数mも上から落下して、それが人へ当たると大怪我に繋がりかねません。
また直撃をしなくとも、下で作業していた人が物の落下に驚いてバランスを崩し、怪我をするということも十分考えられます。
みなさん自身は特に作業をしないとしても、高所で作業している人の真下に立つ行為も危険ですから、このような状況にならないよう現場を歩く際には注意が必要です。
やむを得ず上下作業になる場合には、落下防止器具の設置などが必要です。