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技術コラム

新人君の勘違い!! ナットが多いほど良い締結!?

2024.11.21
設計1年生への基礎知識

どーも、しぶちょーです。

世の中の機械にはさまざまな「締結」が使われています。締結とは、部品と部品を繋げる技術です。どんなに複雑な部品でも、分解していけば細かい部品の組み合わせです。それらの部品が締結されることであらゆる機械は成り立っています。地味ながらも、繋げる技術は非常に重要なのです。そんな締結技術の代表といえば、ねじです。

ねじは簡単に締結が出来て、部品の取り外しも容易。さらにはコストも安い・・・文句のつけようのない素晴らしい技術です。しかしながら、そんなねじにも一つ弱点があります。それがゆるみです。

使っているうちに段々とねじがゆるみ、ねじや部品が脱落してしまう。こんなことがたまに起きます。たかがねじ一本、されどねじ一本。ねじのゆるみは気のゆるみ!?小さな不具合から大きな事故まで、一本のねじのゆるみが原因で発生することがあります。よって、ねじの締結を制するには「ゆるみ」を制する必要があるのです。

本記事では、数あるねじのゆるみ対策の中でも、機械設計の初心者が勘違いを起こしやすい事例を紹介します。あなたは同じ勘違いをしていませんか?もしくは部下の間違いをしっかりと正すことができますか?

新人君の勘違い、僕の考えた最強の締結!?

ゆるみ止めの王道といえば、ダブルナットです。建造物などでも良く使われていますので、意識してみて見れば散歩している中でもダブルナット締結を見つけることができるでしょう。安価で強力なゆるみ止めの対策です。

このダブルナットをみた新人設計者君はとあることを思いつきます。

『ダブルナットでゆるみ対策になるなら、これトリプルナット、クアトロナット・・・とどんどん増やしたらどんなことが起きても絶対にゆるまない夢の締結になるのでは!?』

ナットを増やせば増やすほど、締結パワーが増していく。なんとなく直感的にはわかりますよね。でも世間では、基本的にはダブルナット以上の締結は使われていません。新人君の頭の中は「俺はとんでもないことに気づいてしまったのでは?世界的大発明、天才新人設計者現る」と浮かれ気味です。

さてさて、お察しの通り、世の中そんなに上手くはいきません。当然、彼のこの考えには明確な間違いがあります。皆さんは彼のかんちがい、どうやって解きますか?一緒に考えていきましょう。

 

ダブルナットの原理

まず初めにダブルナットの締結原理をみていきましょう。新人君の勘違いの入り口は「ダブルナットはナットが2つだから緩みにくいんだ」と単純に考えてしまったことです。ざっくり言えば、その通りなのですが、単純に2倍の力になったらゆるみにくいと捉えているところに間違いがあります。通常のナット締結とダブルナット締結では、ねじに掛かっている負荷の状態が全く異なります。これら2つは”全く違う締結方法”になっているといってよいでしょう。

まず通常のナットの締結を見てみましょう。

設計を勉強している方にとっては、親の顔よりよく見る図ですね。基本的には、締め込みによりナットと締結部材の間に軸力が発生し、これが締結のための力となっています。軸力により発生する摩擦でねじは止まっているのです。これがねじ全般の締結の基礎の基礎です。

次にダブルナットの締結の場合を見てみましょう。

注目すべきはそれぞれのナットに掛かる力です。特に着目すべきは、ねじ山の接触状態です。ダブルナットは部材からの軸力ではなく、ナット同士が互いに反発しあい、その力で固定されています。実は軸力で言えば、ナット1つの時よりも弱いのです。ダブルナットの施工では、図の①のナットを抑えた状態で、②のナットを緩める方向に回転させてナット同士をロックします。こうすることでナット同士ががっちりとねじに食い付き、ゆるみ止めとしての効果を発揮するわけです。逆に、①をゆるめる方向に回してしまうので部材を抑える軸力としては低下します。ちなみに、こういうダブルナットの施工を下ナット逆転法といいます。

ダブルナットの効果

ダブルナットとは上述の通り、ナット同士がお互いに押し合うことでナットをロックさせる方法です。このような状態にしておけば、通常のナット締結に比べ、振動でナットが緩みにくくなります。ナットを一つ足すだけでゆるみ止めができるので、安価で手軽なゆるみ止め対策としてよく使われます。一方で注意すべきは、対策できるゆるみの種類です。

ゆるみはざっくりわけて、『回転系ゆるみ』と『非回転系ゆるみ』があります。回転系ゆるみとは振動などの外乱でねじがゆるむ方向に回転してしまい発生するゆるみです。ダブルナットはこの回転系ゆるみにのみ有効です。非回転系ゆるみとは、ねじや部品の変形や摩耗などが原因で発生するゆるみです。こちらのゆるみにはダブルナットは効きません。

逆にダブルナットの施工方法を間違え、誤った力で逆転法をしてしまうと、ねじが伸びて使い物にならなくなったり、逆に緩みやすくなってしまうこともあります。この点は注意が必要です。

 

新人君に伝えるなら?

さてここで、新人君の事例に戻りましょう。新人君が考えた最強の締結、どこが間違っているでしょうか?例えば、トリプルナット。ナット x 3 つで、300万締結パワーだぁ、とウォーズマン御用達の超絶理論を展開してしまっていいのでしょうか。ダメですよね。では何がダメか、これは上述の逆転法の施工を考えればわかります。

トリプルナットでは、3つのナットを逆転法でロッキングしようとしても成り立ちません。例えば②と③のナットをロッキングしたあと、①と②をロッキングしようとしたら、②と③のロッキングが解除されてしまいます。では、①と③で②を挟む、サンドイッチ作戦では・・・これはスペーサーを挟むのと何ら変わりませんね。明らかにナットが一つ余分です。つまりはナットをいくら増やしたところで、結局はダブルナットと何も変わらないという事です。

こういう考え方ができるかどうか、それは原理原則を知っているかどうかで決まります。部品を増やせばそれだけ効果がある、直感的にわかりやすいことには意外と罠があるんです。ナットの例で言っても、たくさんつけておけば、一つ緩んでもまた次、というような「次々と刺客が現れる」ようなイメージをしがちです。そうではなく、ゆるむときはいっぺんに全て逝きます。見た目のそれっぽさに囚われない設計を心がけましょう!!

まとめ

読み人知らずの格言にこんな言葉があります。

『何か素晴らしいアイディアを思いついた時、まず初めにすべきことは「先人がなぜそれをしなかったのか」を考えることである』

革新的なアイディアが思い浮かんだぞ!!と思った時こそ、一旦、冷静になってなぜ「それが今ないのか」を考えることが重要なんですね。大抵のことは昔の人が試して、失敗しているんですね。皆さんは、最強の締結を思い付いた!!と思っても、冷静になって原理原則を考えることから始めましょう。

筆者プロフィール

しぶちょー
「しぶちょー技術研究所」サイト運営者

技術士(機械部門)。
機械メーカーに勤める現役の技術者。
機械設計担当として産業機械の新製品開発に従事し、現在はAI・IoTを用いた新機能開発を担当。
個人活動としてモノづくり技術に関する情報発信を行っており、技術ブログ(しぶちょー技術研究所)・音声配信(Podcast:ものづくりnoラジオ/Voicy:ものづくりnoシテン)・SNSなどで幅広く活躍。専門家でなくても楽しめるわかりやすい解説で人気。

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