こんにちは、りびぃです。
私は普段、FA業界で生産設備の機械設計の仕事をしています。
機械設計の仕事は、部品形状や機構・構造を考えてCADに落とし込んでいくことをしていますが、それは「要求仕様を満たす」という観点だけではなく「各部品や機械を製造するうえで適した製造方法になるよう形状や寸法を決める」ことも非常に重要となってきます。
ただ実は「生産設備」と一口に言っても、そのジャンルは製造ラインや専用機のような「一品モノ」と、産業用ロボットや汎用コンベヤのような「量産品」に大きく分かれており、それぞれで適する製造方法は異なってきます。
ですから、一品モノをよく設計している人は量産品の設計が得意ではないし、逆に量産品を設計している人は一品モノの設計が得意ではないという傾向があります。
通常業務においては各設計者がこのような性格をしていてもさほど問題はないのですが、稀にこれが問題になることがあります。
例えば普段一品ものを設計している人の中には、担当したとある案件のお客さんから「製品をラインで搬送するための専用パレット・ジグもついでに考えておいてくれないか?」などと言われたことがある人はいるのではないでしょうか?
逆に、普段量産品を設計している人の中には、ある日突然お客様から「このカタログに乗っているこの型式何だけれど、xxというようにカスタマイズの対応はできますか?」と問い合わせを受けたことがある人はいるのではないでしょうか?
このようなときに機械や部品の加工・製造方法について幅広く知っていなければ、品質・価格・納期などで的はずれな提案をすることになり、お客様にうまく提案できなかったり、せっかくの仕事のチャンスを逃す事態にもなりかねません。
また既存の製品のマイナーチェンジを考えるうえでも幅広い加工方法について知識を持っていることは非常に重要で、加工方法が変わるだけで機能や品質を高めたり、コストを削減したり、リードタイムを削減することも可能なのです。
ですが実際のところ、このように機械や部品の加工・製造方法について、それぞれの特徴をうまく捉えて柔軟に対応できる人は非常に少ない印象です。
そこで今回は、生産設備で特に重要となる「金属加工」について、その種類や特徴についてわかりやすく解説をしていきます。
目次
金属加工の種類と特徴
まずは金属加工の種類と特徴について、簡単に表にまとめました。
加工方法 | 精度 | 適した生産数(月当たり) | 大量生産時の1部品あたりのコスト |
---|---|---|---|
切削加工 | 0.01~0.1mm オーダ | ~100台 オーダ | 高い |
板金加工 | 0.1~1mm オーダ | ~1,000台 オーダ | 低い |
溶接 | 1mm オーダ | ~1,000台 オーダ | 中程度 |
鋳物(鋳造) | 0.1~1mm オーダ | 10台オーダ~ | 中程度 |
ダイキャスト | 0.1~1mmオーダ | 1,000台オーダ~ | 低い |
鍛造加工 | 0.1~1mmオーダ | 1,000台オーダ~ (自由鍛造は1台から) | 中程度 |
この表をもとに、各金属加工の詳細について解説をしていきます。
1. 切削加工
切削加工は、もととなる材料から不要な部分を工具で削り取ることによって、求められる形状や寸法に仕上げていく加工方法です。
切削加工では多種多様の工作機械や工具がありますが、それらを使い分けたり、組み合わせたりすることで、
- 外形の削り出し
- キリ穴、タップ穴、精度穴の加工
- おねじ加工
- 表面の研削、研磨
- 面取り
などあらゆる形状への加工が可能な方法です。
部品形状によって加工に適する工作機械や工具は異なりますが、NC工作機械(マシニングセンタ)を使えば複雑な曲面形状の加工も可能です。
よくSNSを見ると芸術的な形状の切削加工をしている様子の動画が見受けられますが、それらのほとんどはマシニングセンタを使って加工していると思われます。
ですが工具が材料にアクセスできなければ加工することができないので、内部構造が複雑な部品の加工には向いていません。
精度
切削加工の精度はおおよそ0.001~0.1mmオーダです。
例えばノックピンをいれる穴を部品に設ける場合、切削加工であれば穴位置は0.01mmオーダで、穴径は0.001mmオーダの精度で加工することができます(もちろん部品の大きさにもよりますが)。
切削加工の最大の特徴は、精度の高い加工ができることです。0.01mm単位の寸法公差に対応でき、精密さが要求される場所ではほぼ切削加工が入っています。
そのため、たとえば動力伝達用のシャフトや航空機部品などといった、寸法精度や表面粗さの仕上げなどが重要な部品の加工にも適用することができます。
昨今はマシニングセンタでの加工精度がどんどん向上していっているので、仮に図面に寸法公差が書かれていなかったとしても±0.02mmほどの精度で加工できると言われてはいます。
ですが、その寸法精度で仕上がることを信頼してあえて図面に寸法公差を描かないような図面作成はNGです。
生産数
切削加工は一箇所一箇所を丁寧に加工するのが得意である一方、大量生産が必要な部品の製造には向きません。
特に
- 元々の材料から削り出す量が多い
- 高精度に寸法や表面などを仕上げる必要がある
- 複雑な曲面が多い形状
- 段取り替えが発生するような形状
の場合は、どうしても加工時間が多くなってしまうからです。
ですが、部品によっては切削加工でないと寸法精度が達成できないような部品もあるので、そのような場合は「該当する部分の加工をするときのみ切削加工を活用する」というように、他の加工方法と組み合わせて運用されることも多いです。
コスト
切削加工の大きなメリットの一つは、金型を必要とする加工方法に比べて初期費用を低く押さえられる点です。
金型を作るとなると、その製作費・時間等が多大にかかるようになるのですが、それが不要というだけで初期費用かなり削減できるのです。
ですから、少量生産の特徴があるものほどコスト的に優位ですし、量産がスタートする前の試作段階でもよく活用される加工方法です。
一方で「精密な寸法精度は不要だが、とにかく大量に生産したい」というような部品は、切削加工には向いていません。
2. 板金加工
板金加工とは、薄い金属板やパイプ材を切断、曲げなどして、さまざまな形状に加工する技術です。
主に元々の材料を変形させるような加工方法であることから、工夫次第で一枚の板から複雑で立体的な形状・高い剛性を有する形状に成形することか可能です。
また金型を使ったプレス加工を採用すれば、キッチンのシンクの形状のように深さ方向に大きく変形させる「絞り加工」も可能となります。
板金加工が可能な金属板の厚さについては、薄いものですと0.1mmオーダから可能です。
一方で厚い側についてですが、こちらは技術の進歩により年々加工可能な板厚が大きくなってきている印象で、私が展示会等で見たものですと板厚20~30 mm程度もの厚い板も加工可能とうたわれておりました。
ただし「曲げる力を加えたときに、材料が割れたり破損したりしない」ことが必要ですので、延性材料と呼ばれる分類の金属材料(SPCC、SUS304など)でないと板金加工ができません。
精度
板金加工で製作した部品のおおまかな精度は0.1~1mm オーダ程度で、あまり精度が良いとは言えません。
と言いますのも、板金加工では曲げ加工をすると「スプリングバック」という、部品が元の形状に若干戻ろうとする現象により寸法精度が悪化しやすいのです。
特に
- 曲げ部の箇所が多くなるほど
- 曲げ部の角度が鈍角になるほど
- 曲げ部のR寸法が大きくなるほど
寸法精度が悪化します。
もちろん加工業者さんは、このスプリングバックを考慮して可能な限り精度を高くしようとしてくれますが、それでもスプリングバックは多かれ少なかれ残ってしまいます。
そのため、高い寸法精度を要求するような部品の加工には適しません。
生産数
板金加工は、少量生産・大量生産のどちらにでも対応することができます。
ですが使用される加工機は、両者で大きく異なります。
まず少量生産をする場合には、元の材料から特定の形状を切り取るための切断機(レーザー加工機、タレパン、ウォータージェットなど)と、材料を曲げる加工機(ベンダー)の2種類の加工機をうまく活用しながら行います。
ベンダーでの曲げ加工は、一箇所一箇所を順番に曲げていきながら成形をしていきます。
切削加工のように高精度な加工はできない代わりに、仕上げ加工にあたるような工程が基本ないので、高い生産数・短いリードタイムで製作可能です。
一方で大量生産をする場合には、金型を使ったプレス加工で製造していきます。
プレス加工で、材料の切断、穴あけ、曲げなどを行うため、非常に素早く材料を整形することができます。
場合によってはプレス加工の工程を分けることもありますが、それでも大量生産に向いた加工方法であることには変わりありません。
こういったことから、産業機械のカバーやセンサブラケットのようなものから、自動車の車体や家電製品の筐体など、幅広く活用されています。
コスト
板金加工のコストは、その部品専用の金型の有無によって大きく変わります。
部品専用の金型がない場合には初期コストを低く抑えることが可能です。
一方で金型を使う加工では、金型を製作する関係で初期コストが高くなってしまいます。
ですが、生産量が多くなればなるほど一部品あたりの製造コストが低くなっていき、ついには金型を使わない場合よりも低コストで製造することが可能です。
また、部品製作のリードタイムもかなり短縮されていきます。
月間で数千個以上の生産量になるようであれば、金型を使った板金加工を検討してみると良いでしょう。
3. 溶接加工
金属板や角パイプなどといった金属材料同士を熱で溶かして接合する加工方法です。
複数の材料を組み合わせることで複雑形状の部品を「一体もの」として製作することが可能である上に、接合部は金属同士が溶けて冷え固まっているので、強度が高いことが特徴です。
そのため、
- 自動車のボディ
- 橋梁や鉄塔などの建造物
- 産業機械の架台
- 手すり
- タンク
などの接合部でよく採用されています。
ちなみに溶接加工で製作される部品のことは「製缶品」と呼ばれています。
精度
溶接加工そのものによる精度は、板金加工よりもさらに良くありません。
溶接加工では金属に高熱を加えて一度溶かすのですが、その溶けた金属が冷え固まる過程で収縮します。
この収縮が溶接箇所のみに発生するために歪みが生じ、寸法精度が悪化します。
溶接加工をした部分のことを「溶接線」といいますが、この溶接線が長くなるほど寸法精度が悪化します。
逆に溶接線を短くする(スポット溶接など)ことでひずみを抑えることができますが、その分溶接による接合部が減るので強度が低下します。
最終的なひずみの量を設計段階で定量的に把握することは非常に難しく、
- 部品の形状
- 溶接の手順
- 溶接施工者の腕
など複数の要因によって左右されます。
なお、溶接した部品のひずみが問題になるようであれば、
- 溶接をした後に熱処理をしてひずみをとる
- ハンマーで叩くなど、外力を加えてひずみを切削加工を行うようにする
などといった後処理をしていきます。
また、高い寸法精度を要求するものであれば、溶接加工後に切削加工をしていきます。
生産数
溶接加工は少量生産・大量生産のどちらでも対応可能です。
少量生産の場合には、溶接工が手作業で溶接をすることが一般的です。
一方で大量生産をする場合には産業用ロボットを使って溶接させることが一般的です。
ロボット導入や動作のプログラミング・ティーチング等といった作業が必要にはなりますが、場合によっては月数百台~数万台レベルで生産することも可能です。
コスト
コストに関しては、中程度と言えます。
溶接線が長くなると溶接作業そのものの時間がかかりますし、さらにひずみが大きくなることで後処理の工程も増えてきます。
切削加工より加工時間は短くなる傾向にありますが、板金加工に比べると長くなります。
さらに構造物規模となると、溶接部の欠陥によって甚大な被害が発生するリスクが高いため、非破壊検査を実施することもあります。
このように加工時間やその後の処理・作業がかかるほど、コストは増えていくようになります。
4. 鋳物(鋳造)
鋳物(鋳造)は、金属を高温で溶かし、型に流し込んで冷却・固化させることで製品を作る加工方法です。
金属を一度完全に溶かすため、型の形状次第で複雑な形状に製造することが可能です。
中には切削加工ですら製作不可能な形状を作成することもできます。
精度
鋳造後の製品は溶けた金属が冷却する際に収縮をするので、わずかな変形が生じます。
鋳造の中でもどのような方式かによってある程度差はありますが、寸法精度はざっくり0.5mm~数mmあたりでしょう。
そのため、ボルト穴の位置ですらズレてボルトが入らないというケースも多いため、穴径はかなり大きく設計しておくようにします。
なお砂型鋳造と呼ばれる方式で製造した場合、部品の表面がザラザラした質感になります(これを鋳肌と言います)。
よって、滑らかな表面が必要な箇所、また精度が必要な箇所については、鋳造後に切削加工で仕上げをしていくことが一般的です。
生産数
鋳造は少量生産・大量生産のどちらにも対応できますが、それぞれ鋳造の方式は異なります。
まず少量生産向けですが、こちらは砂型鋳造と呼ばれる手法が採用されることが多いです。
生産数の観点で言えば他の鋳造の方式と比べると、砂型は簡単に作成・変更できるというメリットがあります。
そのため、製品の試作品製作にも活用されている手法です。
しかし作成した砂型は使い捨てになる点には注意が必要です。
そのため大量生産では、金型鋳造・ロストワックスなどのように型を繰り返し使用できる方式が採用されます。
コスト
まずは少量生産に向いてる砂型についてですが、こちらは比較的安価に製作可能です。
また途中の設計変更への対応がしやすいことも大きなメリットです。
月数十台~数百台程度のオーダーであれば砂型鋳造が向いているでしょう。
一方、それ以上の生産量になるようであれば金型鋳造が向いています。
初期コストは金型の製作費用が比較的高額(おおむね数百万円~)であるものの、複雑な形状を金型で一体成形できるため、1個あたりのコストは低く抑えられます。
なお金型を製作する場合には、金型自体の納期があることにも注意しましょう。
納期は金型の形状にもよりますが、おおむね1か月~数か月かかります。
5. ダイキャスト
ダイキャストは、溶けた金属を高速・高圧で型に流し込んで成形する方法です。
鋳物との違いは「金属を型に流し込む際に高い圧力をかける点」にあります。
そのため、鋳物による製造方法よりもさらに複雑な形状、高い寸法精度を実現することができます。
また薄肉で複雑な形状の部品も高精度に成形できるため、部品の軽量化、省スペース化、部品点数の削減効果などを期待することができます。
ただし、ダイキャストで使用できる材質はアルミニウム、亜鉛、マグネシウムなどの非鉄金属に限られ、鉄系の材質は使用できません。
精度
ダイキャストは、高圧で金属を型に流し込むことによって、鋳物に比べると高い寸法精度と表面仕上げが得られます。
最終製品に近い形状での製造が可能であるため、後工程での切削や研磨などの追加加工が最小限で済むようになります。
ただし金属を急冷させて製造するため、場合によっては若干精度が悪化する場合もあります。
そのため形状や大きさにもよりますが、寸法精度はざっくり0.1mm~1mm程度です。
さらに高い精度が必要な場合には、後加工で切削加工を実施し、仕上げることもあります。
生産数
ダイキャストは大量生産をするような部品の製造に適した製造方法です。
部品の成形から冷却まで、一つの部品あたり数十秒でできることもあります。
また産業用ロボット等を使って材料の出し入れ等を自動化することによって、より高い生産数で製造することができます。
このようなこともあり、自動車部品(エンジン用冷却ファンなど)や家電製品の部品(ヒートシンクなど)の製造で使用されています。
コスト
ダイキャストで製造するためには金型が必要になります。そのため初期コストが高くなる傾向があります。
しかし、大量生産すれば金型分のコストをペイし、結果的に1個当たりの製造コストを安く抑えることができます。
ちなみに昨今ではテスラ社が「ギガプレス」と呼ばれる巨大なダイキャストを導入し、従来は数百点もの部品を組み合わせて製造されていた箇所をわずか数点だけで製造するということで非常に話題になっておりました。
このように、ダイキャストの導入によって部品点数の大幅削減が達成できれば、組み立て工程や工数も大幅削減できるので、より大きなコスト削減効果が期待できます。
6. 鍛造加工
鍛造(たんぞう)加工は、金属を高温に加熱し、強い力をかけて金属を塑性変形させ、目的の形状に加工する方法です。
強い力をかけることを「鍛える」と言いますが、このように鍛えることによって金属内部の結晶構造が強化されるため、高い強度と耐久性を持つ部品を製造することができます。
特に高温環境でも一定の機能を果たす必要がある部品の製造にも適しているため、工具や自動車のクランクシャフトの製造にも採用されています。
精度
鍛造加工は、精度面では他の加工方法と比較するとやや劣っています。(ざっくり0.5mm~数mm程度)
高温で製造する「熱間鍛造」という方式では、加工後に冷却される過程でわずかな変形が生じるため、精度が悪化しやすいです。
そのため追加の切削加工が必要になることが多いです。
しかしこのようなデメリットを克服するための手法として、常温で行う「冷間鍛造」という方式もあります。
熱間鍛造に比べると加工可能な形状の制限があるものの、高い寸法精度での製作が可能になります。
生産数
鍛造は、少量生産・大量生産どちらの製造にも対応できますが、それぞれで異なる方式での製造が行われます。
まず少量生産では「自由鍛造」という方式が採用されます。
よく日本刀を製造する職人がハンマーで刀を鍛えている映像を見ますが、これがまさに自由鍛造です。
一方で大量生産では「型鍛造」という方式が採用されます。
型を使うことで品質のばらつきが少なく、かつスピーディーな成形加工を行うことが可能です。
また自動ライン化することができれば、さらに生産数を増加させることができます。
コスト
少量生産で使われる自由鍛造であれば、型が不要ですので初期コストを抑えることができます。
しかし手作業での加工になるため、非常に高い技術を持った加工業者でないと対応することが難しく、また加工工程が増えることでリードタイムもかかってしまう印象です。
そのため他の加工方法に比べると、比較的コストが高くなる傾向にあります。
一方で型鍛造の場合、金型の製作費によって初期コストが高くなります。
ただ、一度金型を作れば一部品あたりのコストを下げることができます。