こんにちはー、りびぃです。
普段はFA(ファクトリー・オートメーション)業界で設計エンジニアをしています。
一般の方でも工場といえば「コンベヤで何かが運ばれている」というイメージを持つ方もいると思いますが、実際そのとおりで、FA業界ではかなり頻繁にコンベヤを使用します。
というのもコンベヤは、比較的容易な構造かつ安価で、安定した搬送を行うことができるという特徴があるからです。
そのため物流倉庫ではもちろんのこと、食品業界や自動車業界の工場でもよく使われます。
いざコンベヤを生産設備に導入する際ですが、最近ではカタログ品のコンベヤが増えてきており、生産設備の設計者がわざわざ部品一つ一つを設計・選定しなくても導入出来てしまうことは事実です。
ですがカタログ品のコンベヤは、
- 絶妙に寸法関係が合わない
- 取り付け可能なモータが限定される
- ブラケット等の取り合いが合わない
- 今担当中の案件が特殊環境なので、それに適合するコンベヤが見つからない
などの不都合がよく生じます。
ですから「いざとなれば、自分で部品一つ一つを設計・選定し、コンベヤを設計できる」というスキルは非常に重要です。
そんな中、ベルトコンベヤの設計経験が浅い人にとっては、
- 「ベルトコンベヤを設計する時は何に気を付ければいいのか?」
- 「この改造内容は間違っていないか?」
と疑問や不安が浮かんでくると思います。
実際その直感はあたっていて、コンベヤを設計する際に気を付けるべきポイントを知らずに設計してしまうと、大きなトラブルにもつながりかねません。
そこで今回は、ベルトコンベヤの設計で発生しやすいトラブルや設計のポイントについて紹介をしていきます。
詳しく解説していきますので、コンベヤ設計時のチェックリストなどとしてもご活用いただければ幸いです。
目次
モータの能力不足
ベルトコンベヤのモータは、ワークの重さや数量、搬送速度など様々な条件をもとに計算したうえでスペックを絞り込み、選定します。
基本的にはコンベヤメーカが公開している技術資料を参考に計算が掲載されているので、エクセルなどを使って計算をしていけばよいのですが、その中でも特にモータの能力不足のトラブルに陥りやすいポイントについて紹介します。
一つ目は「実際の回転数でのトルクで計算していないミス」です。
コンベヤが発揮できる搬送力は主にモータトルクによって決められますが、メーカカタログを開いてみるとモータに関するスペックが一覧表でまとめられているページがあります。
この一覧表は比較的見やすいというメリットがあるのですが、基本的には「定格トルク・最大トルク」程度しか書かれていません。
これの何が問題かというと、実はモータが発揮できるトルクはモータを駆動させる回転数によって変化するのです。
この「モータの回転数に対するモータトルク」をグラフとして表現したものを「トルク特性図」といい、モータメータのカタログには必ず掲載されているものです。
モータの種類にもよりますが、おおまかな特徴として「回転数が大きくなるほど、モータが発揮できるトルクが下がる」という傾向があります。
モータの定格トルクや最大トルクはせいぜい「低〜中回転数での値」ですので、高回転数が必要な場合はしっかりと確認するようにしましょう。
特に減速機やギアヘッドを取り付ける場合、間違えて負荷軸の回転数で値を見ないよう、モータの回転数で確認することを注意してください。
二つ目は「コンベヤの揚程の検討漏れ」です。
揚程とは「コンベヤを傾斜させて上りまたは下り搬送をする際の、高さ方向の距離」のことを言います。
特にコンベヤを上り方向に傾斜させて使用する際は、水平使用時の搬送力以上の搬送力(モータトルク)が必要になります。
例えばコンベヤ上り傾斜をたった5°つけるだけで、水平の搬送力の約1.87倍もの搬送力が必要になります(ベルトとベルトガイドの摩擦係数を0.1で計算)。
どうしてもトルクが足りない場合には傾斜を緩やかにするという対策がありますが、決められた揚程まで搬送させるためにはコンベヤを長くせざるを得なくなります。
コンベヤが長くなれば、当然コンベヤの配置スペースに直面することになるので、慎重な判断が必要です。
乗り継ぎ時にワークが引っ掛かる
実際工場へコンベヤを配置する際には、ベルトコンベヤを複数連結させる方式を取ることが一般的です。
このようにすることで「あるコンベヤは起動・停止を繰り返しつつ、別のコンベヤは起動しっぱなし」などのように、ワーク搬送の柔軟性をもたせることができるからです。
しかしこの場合「コンベヤの乗り継ぎ時にワークが引っかかる」というとトラブルが起こることがあります。
特に小さいワークを搬送する際や、コンベヤのプーリ径が大きい場合に発生しやすく、
- ワークが損傷する
- コンベヤのモータに過負荷がかかり発熱する
などの不具合につながることがあります。
このような場合には「ナイフエッジ」という手法を活用します。
ナイフエッジとは、コンベヤ先端部の径を小さくすることで、小さい搬送物がスムーズに乗り移れるようにするための構造のことをいいます。
ナイフエッジは先端に小さめのプーリを使うこともありますが、より鋭いナイフエッジが必要な場合には耐摩耗性のあるプレートの先端をR加工したものなどを用います。
ナイフエッジを用いれば搬送中にベルトが無い部分を極力減らすことができるので、乗り継ぎ部でのワークの傾きを防ぐことができます。
ただしナイフエッジを採用するにあたっては、以下の点に注意する必要があります。
- ナイフエッジのためにコンベヤ長さを長くせざるを得なくなる場合がある
- ナイフエッジは裏面もフラットでなければならないため、タイミングベルト不可
- ベルトが鋭角に曲がる必要があるので、厚みがあり弾力の強いベルトは使用できない
- プレートを使ったナイフエッジ構造の場合、ベルトは常に擦れているので、プーリに比べてベルトが摩耗しやすい(特に重量物搬送、高速搬送)
これらをよく検討の上で、採用してみてください。
スリップによる搬送不良
コンベヤを急加速・急停止で使用する場合にはスリップによる搬送不良に注意する必要があります。
まず平ベルトのコンベヤの場合には、ベルトとプーリとの間でスリップする懸念があります。
一度スリップし始めると、速度を落とさない限りはプーリがずっと空回りした状態になるので、モータのトルクを搬送力として伝えることができなくなってしまいます。
またスリップが連続的に発生し続けると、摩擦による熱が発生し、ベルトが焼け焦げたり、最悪の場合火災にまで発展する恐れがあります。
ですから平ベルトコンベヤを使う際は緩やかな加減速、あるいは定速運転で活用される「インダクションモータ+インバータ」の組み合わせがアクチュエータとして採用されます。
もし、ステッピングモータやサーボモータなどを使って急加速・急停止でコンベヤを運転させたい場合には「タイミングベルトコンベヤ」と呼ばれる構造を採用します。
タイミングベルトコンベヤとは、ベルトにはタイミングベルトと呼ばれる歯がついたベルトを採用し、またプーリもタイミングプーリと呼ばれる歯付きのプーリを採用したコンベヤです。
ベルトの歯とプーリの歯とが噛み合いながら運転するため、ベルトとプーリ間のスリップを防ぐことができます。
また場合によっては位置決め制御にも使用することができます。
しかし、一般的にタイミングベルトはベルト幅が狭い物が多く、トラフ型にすることも困難なので、小物ワークの搬送やバラ物搬送には不向きという特徴があります。
さらにタイミングベルトコンベヤは、ベルトとプーリ間のスリップは防げてもベルトとワーク間のスリップは防げません。
あえてベルトとワーク間をスリップさせる「アキュームコンベヤ」として使用することもありますが、スリップさせない運用なのか、スリップさせる運用なのかで選定するべきベルトの材質が変わりますので、設計時に慎重に検討するようにしましょう。
ベルトが蛇行する
コンベヤが運転しているとき、基本的にベルトはフレームに対し平行に直進し続けるのが正常な状態ですが、運転させたときに蛇行してしまうことがあります。
ベルトが蛇行してしまうとベルトがフレームと擦れてベルトが損傷してしまったり、ベルトがプーリから脱落するトラブルが発生する可能性があります。
ベルトの蛇行は主に幅方向に規制のない平ベルトで発生しますが、これにはいくつかの要因が挙げられます。
一つ目は「ベルトの張力調整不良」です。
ベルトの搬送面は基本的に均一にピンと張った状態で起動させます。
そのために、コンベヤにはベルトの両端にベルト張力を調整させる機構を、ベルト幅方向に両サイド設けるのが一般的です。
ですがこのベルトの張力が不均一になってしまっていると、ベルトの蛇行が発生しやすくなります。
また、そもそもベルトに与える張力自体が小さい場合にも、ベルトの蛇行が発生します。
一応目安として事前にベルトに付与する張力を計算することはできますが、実際には現場で試運転させながら張力を調整していくことになります。
二つ目は「ベルトの劣化」
基本的にベルトの材質は弾性のあるものが使われていますが、コンベヤとして長時間運転し続けているとベルトが伸び切ってしまいます。
またワーク搬送中に受けた傷や摩耗によっても劣化していき、その結果ベルトが蛇行するようになるのです。
このようになってしまったベルトは補修することは困難なので、基本的にはベルト交換で対応していくことになります。
三つ目は「ワーク重心位置の偏り」です。
ワーク重心がベルトの幅方向で偏っていると、ベルトにかかる張力の不均一が発生しその結果ベルトが蛇行してしまうのです。
ですからコンベヤ上にワークを積載させる際は、なるべく重心が中心位置に近くなるよう工夫することが重要です。
しかし設備の仕様上、ワークを置く位置がどうしてもバラバラになってしまったり、ばら物搬送のように搬送時の重心がその都度変わるような場合、蛇行調整してもすぐに蛇行が発生してしまうことがあります。
バラ物搬送の場合にはワークを均す機構を採用すれば解決できる可能性がありますが、一方で均し機構でワークが詰まる・滞留する懸念もあるので事前にテストすることをおすすめします。
その他対策とそれに対する注意点は以下のとおりです。
- クラウン形状のプーリの採用
(ただし、そこまで大きな効果は期待できない) - 桟付きベルト、専用プーリの採用
(ただし、ベルトの桟の部分が盛り上がっていることもあり、搬送時にワークの姿勢が不安定になる原因になる) - タイミングベルトの採用
(ただし、バラ物搬送には不向き) - ベルト張力の自動調整機構の採用(下図参照)
(ただし、設備導入費用が上がる)
コンベヤで搬送するワークの性質や予算などを総合的に考えて、蛇行対策を施していくようにしましょう。
ベルト材質の選定ミス
コンベヤに使用するベルトは、その材質によって適する環境・適さない環境とがあります。
もし選定をミスしてしまうと、製造ラインを頻繁に止めることになったり、製造する製品の品質問題に関わることにもなりかねません。
そのため、ワークの性質やコンベヤの使用環境に応じて、適切なベルトを選定することが非常に重要なポイントとなります。
以下に代表的な材質と、その特徴などをまとめた表を示します。
特徴 | 適する環境 | 適さない環境 | |
ゴム | ・柔軟性に優れ破断しづらく、衝撃にも強い ・土砂や石炭などの重量物のワークにも適応可能 ・表面が滑りづらい | 重量物 | 食品(ゴム特有の匂いあり) クリーンルーム |
樹脂 | ・表面の樹脂の種類を変えることで、耐水性や 滑りやすさなどの多彩な機能を使い分けられる ・耐久性は他の材質に比べて低い | 食品 クリーンルーム 軽量物 | 重量物 |
金属 | ・熱や摩耗に強い ・ベルトのほつれによる異物混入の心配がない ・表面がツルツルしていてあらいやすく衛生を維持しやすい | 食品 クリーンルーム 電子部品 高熱環境 | バラ物(トラフ不可) |
材質の特徴をしっかりと理解したうえで、適切なベルトを選定するようにしましょう。
ワーク位置決めが安定しない
ワークを特定の位置で停止させるような位置決め制御としてコンベヤを使用する場合、停止位置が安定しないというトラブルが発生することがあります。
このようなトラブルが発生すると、例えば
- 産業用ロボットでワークをチャックする
- ワークに対して部品を自動で組み付ける
という場合に動作が失敗し、生産ラインの稼働率が低下するという問題が起こります。
このようなトラブルを防ぐためには、主に2つの方法があります。
一つ目は「外部ストッパや外部位置決めピンを用いてワークを位置決めする」です。
コンベヤ上のワークを外部から物理的に位置決めさせるので、位置決め精度や停止位置の再現性が高いというメリットがあります。
しかし「位置決め時にワークとコンベヤが若干擦れる」「ストッパで止めた衝撃でワークが損傷する可能性がある」などの問題があるので、繊細なワークの場合には不向きな方法です。
二つ目は「段階的にコンベヤを減速しながら位置決めをする」です。
例えば「減速トリガー用の光電センサ」と「停止位置用の光電センサ」との2セットのセンサを活用するなどが事例としてあります。
ワークが減速トリガー用の光電センサを通過したときにコンベヤを減速させ、停止位置用の光電センサの位置でピタッと止めるようにします。
このようにすることで急減速によるワークのスリップを防ぐことができます。
コンベヤに求められるサイクルタイムやワークの性質などを考慮し、採用を検討してみてください。
粉塵環境でのトラブル
もしコンベヤを運転する現場が、粉末状のワークを取り扱っていたり、塵・ホコリなどが混入するような環境の場合、コンベヤの設計には一層注意が必要です。
といいますのもこのような環境では、
- ベルトの表面に付着することでワークやプーリがスリップしやすくなる
- プーリを支えるベアリング内などに入り込むと、軸やプーリが損傷する
- 土砂などの硬いワークの場合、ベルトが短期間で損傷する
などのトラブルが発生するリスクが高いためです。
このような環境では、コンベヤのリターン側にスクレーパという部品を取付けてベルトを常に清掃させたり、カバーを設置して異物の混入を可能な限り防ぐなどの工夫が必要ですが、それだけでは不十分であることも多いです。
その場合にはお客さんに説明をし、メンテナンスで対応いただくなどの交渉をすることも必要になります。
メンテナンス時のトラブル
ベルトコンベヤは張力調整やベルト交換などのメンテナンスを定期的に行う必要があります。
しかし設計時にこれらのメンテナンス作業を想定しておかないと、メンテナンスに想定以上の時間がかかったり、最悪メンテナンスができないといったトラブルに繋がってしまいます。
その具体例について説明をしていきます。
ベルトの張力調整でのトラブル
ベルトは使用し続けていくとだんだんと伸び切って言ってしまうのですが、とはいっても多少伸びた程度であれば、ベルトの張力調整を再度行うことで再び使用可能になります。
そのためベルトの交換タイミングの時期が来るまでは、定期的にベルトの調整作業を行うことが一般的です。
これを踏まえると、コンベヤの構造によっては張力調整作業に不都合が出てくる場合があります。
たとえばコンベヤの構造の中で最もシンプルなのは、コンベヤの下流側に駆動用の軸とプーリを1つずつ、コンベヤの上流側に柔道用の軸とプーリを1つずつ配置する手法です。
この構造は「プーリの数が最小限に押さえられることによる装置のコンパクト化」というメリットはあるものの、ベルトの張力調整作業において、従動軸のプーリ(テールプーリ)の位置を動かして調整する必要があります。
すると、例えばベルトコンベヤが連続して設置されている場合には、テールプーリの位置を動かそうにも、すぐ隣のコンベヤと干渉してしまうという不都合が生じます。
そのため、このような連続でコンベヤを配置する箇所においては、以下の図のように下図のように「テールプーリ以外のプーリで張力調整できるような構造」が採用されるケースが多いです。
またこの構造は、張力調整作業でテールプーリの位置を動かさないという特徴もあります。
これによりメンテナンス前後でベルト間の隙間量が変わらないため「メンテナンスによって乗り継ぎ時にワークが引っ掛かるようになってしまった」などというリスクを解消することにも繋がります。
ベルト交換時のトラブル
ベルトが寿命を迎え、いざをベルトの交換作業をする際に、コンベヤの構造によってはトラブルが発生することがあります。
ベルト交換は一般的に、ベルトコンベヤのプーリやフレームの一部を分解し、コンベヤ側面からベルトを引き抜き新しいベルトと入れ替えます。
この時に、ベルトコンベヤに他の設備が密着するように隣接してしまっていると、必要な分解作業ができなかったり、ベルトを再組付けできなくなるトラブルが発生することがあります。
このようなトラブルにならないよう、設計の段階でベルトコンベヤ設置位置の周辺にスペースの余裕(特に側面側)を確保しておくことが重要です。
ただし例外もあり、設備が設置されている工場などの現地で、ベルトの「エンドレス加工」ができる場合はこのトラブルは発生しません。
エンドレス加工とはベルトの端同士を接合して輪っか状にする加工のことで、接合には接着剤や金具を使ったものやベルトの樹脂に熱を加え溶融することで接着する方法があります。
コンベヤメンテナンスの専門業者に依頼する必要はありますが、このエンドレス加工を現地で施工できればコンベヤフレームを分解せずにベルト交換作業ができます。
特に採石場のベルトコンベヤのように、コンベヤのサイズが大きく搬送距離も長距離の場合は、コンベヤフレームを分解するよりも現地でのエンドレス加工によるベルト交換がコストメリットがあるのです。