こんにちはー、りびぃです。
普段はFA(ファクトリ・オートメーション)の業界で、生産設備の設計をしています。
みなさんは一度は工場で検査員の方が横並びになり、目視検査をしているシーンを見たことがあるのではないでしょうか。
このような目視検査を自動化するのもFAでは多いニーズの1つです。
AIや撮像技術の進化により、画像検査システムの需要はさらに増えています。
省人化によるコスト削減だけでなく、検査員の疲労軽減、見逃し防止、人手不足といった課題解決にも役立つと期待されているのです。
そんな画像検査システムですが、ノウハウや経験値を持つ方は身近にいるでしょうか?
画像検査は、
- 光学技術(どのように検査対象や欠陥を画像で捉えるか)
- 画像処理、AI技術(どのように画像から対象を検出・計測するか)
- 設備構想(画像検査を活かすための設計や制御技術)
など、複数の要素で構成されます。
知識・技術の幅も広く、体系的にまとまったコンテンツも少ないため、ユーザや設備メーカ側でも画像検査に長けている方が少ないのが実情かと思います。
そのため設備設計者も画像検査システムを開発する際には、多くの場合は画像処理・AIメーカへ相談し、提案を受けた機材構成で仕様・見積もりをまとめることになります。
ですが、この提案された機材が適正かどうかの判断はつけられるでしょうか?
ほとんどの方は「画像検査のことはわからないし、提案されたものそのまま採用するしかないか・・・」となっていないでしょうか。
何も知らないまま採用すると、顧客から「何故、この機種になったの?」と質問されても何も答えられません。
それどころか、オーバースペックの機材を購入してコストが上がる場合もあれば、最悪はメカ・制御の仕様とミスマッチし検査が成立しないこともあります。
当然、そのような状況になれば顧客からの信用も失ってしまうでしょう。
そのような状況を回避するために、今回の記事では画像検査に関わる主要機材である、
- カメラ
- レンズ
- 画像処理
- 照明
以上4点に的を絞り、適正な仕様を判断するためのコツを具体例も交えて分かりやすく解説していきます。
コツがわかれば主体的な判断と画像メーカとの連携が強まり、画像検査プロジェクトは成功に近づきます。ぜひご参考にしてください。
目次
画像検査システムの構成を理解しよう
まず、主要パーツの役割と構成を見ておきましょう。
カメラ | レンズを介して光の情報をデジタルに置き換える=画像化する部分です。 産業用カメラにおいては、「カメラ」にレンズは含めず呼称されるケースが多いようです。 |
レンズ | 対象ワークの見た目を的確にカメラに伝える役割を持ちます。 |
LED | 対象ワークの特徴(形状や表面の質感、色味など)を表すために用います。 |
画像処理・AI | 撮像された画像を用いて、対象箇所を検出・計測します。 AIはソフトウェアのため、画像処理機の中にインストールされています。 |
制御 | 検査のタイミングやOK/NG時の処理をコントロールします。 |
ハードウェア(搬送・筐体) | コンベア上での搬送やチャックによりワークを移動させます。 |
これらが集まったものが画像検査システムです。
主な構成が理解できたところで、カメラ・レンズ・LED・画像処理機について解説に進んでいきましょう。
前提として、各パーツの仕様項目は多々ありますが、全てを解説するのではなく「検査・計測能力に影響があるポイント」に絞ってまとめていきます。
各機器間の影響を確認しよう
各機器が互いにどのように影響しているかを理解することも重要です。
例えば、コストを下げる目的でLED照明のスペックを下げようとすると明るさが低下し、結果として明るさ不足を補うためにレンズやカメラの選定も見直す場合もあるためです。
全体像を図に示します。
カメラ | 検査するワークや検出/検査能力に応じて、必要な画素数が決まります。 |
レンズ | カメラが決まると、内部に組み込まれているセンサの仕様も確定します。 実はレンズは内部のセンサに応じてレンズのタイプが概ね決定されます。 この時点でセンサのサイズに対して、集光できるのか・解像度が足りているかを確認しています。 |
LED照明 | 明るさはカメラ・レンズ・LED照明と合わせて確認されます。 照明の形状や色は担当者のノウハウや経験値に基づいている場合が多いようです。 |
画像処理機 | カメラの画素数や台数に応じて、メモリサイズや接続可能台数で画像処理機の仕様が決まります。 |
特にカメラは各機器への影響力が大きいことが分かります。
カメラが高いスペックであれば、それに応じて高いレンズや画像処理もスペックになる傾向があります。
仕様全体の適正判断の場合は、まずはカメラに着目するとよいでしょう。
今回は具体的なプロジェクトを例に考えてみましょう。
![]() | 検査概要
|
各機器の選定のポイント
カメラ:必要な画素数を算出しよう
まずはカメラから解説します。
前述のようにカメラの仕様は各機器への影響が強いため、最重要ポイントです。
着目すべき仕様は「画素数」です。
画素数が高ければ、より高精細な画像を取得できますし、低ければ粗い画像になります。
しかし、そもそも画素数はどの様に決めているのでしょうか?
1. 画像分解能を確認しよう
画像上での1画素あたりのサイズを示す指標を「画像分解能」と呼びます(メーカによっては「画素分解能」とも表記します。)
多くの場合は画像メーカが、顧客の検査要求からこの画像分解能を検討しています。
設計者の皆さんはこの画像分解能を確認・自分で計算し、画像メーカに根拠を確認することをお勧めします(画像メーカから受け取った事前テストレポートや提案書内に画像分解能が記載されていることが多いと思います)。
画像分解能は検出対象のサイズから算出されます。
例えば、Φ0.1mmの欠陥を検出すると仮定すると、欠陥を4画素分で撮像できれば検査が安定するのであれば、画像分解能は0.1mm÷4=0.025mmとする必要があります。
ただし、欠陥を何画素で撮像すべきかは画像メーカによって推奨値が変わります。
必ず画像メーカに確認しましょう。
2. 撮像範囲を決める
次は撮像する範囲を決定します。
今回の例であるリテーナ検査に当てはめて考えてみましょう。
天面側からリテーナを撮像すると下記のようなイメージになります。
今回の例では外径が30㎜です。
カメラが撮像する範囲のことを「視野」と呼び、ワークが視野に対して7割程度の範囲で撮像することが目安です。
視野は図のように長方形であることが多いです(正方形の場合もあります)。
今回であれば、視野の短手方向が30mm ÷ 0.7 = 約42mmで撮像される必要があります。
3.カメラの画素数を決める
続いて必要な画素数を計算によって求めていきます。
撮像範囲「42mm / 画像分解能0.025mm = 1680画素( 短手方向で必要な画素数)」となります。
次に仕様を満たすカメラを選択します。
今回の条件で考えれば、短手方向で1680画素以上の500万画素カメラが適正と言えるでしょう。
カメラの画素数
120万画素 | 1280画素×960画素 |
200万画素 | 1624画素×1240画素 |
500万画素 | 2448画素×2048画素 |
900万画素 | 4096画素×2160画素 |
1200万画素 | 4096画素×3000画素 |
レンズ:焦点距離を理解しよう
産業用のレンズには主に以下のような種類があります。
各機器間の影響を確認しようの章で書いたように、カメラ(センサ)に応じてレンズも概ね仕様は決まってくるのですが、設計者の皆さんに意識して欲しいのは、レンズの「焦点距離」です。
ざっくり説明すると、
- 「f = 〇〇mm」と表記されている
- mmの値が小さければ広角レンズ、大きくなれば望遠レンズと呼ばれる
とされています。
この焦点距離の大小によって、撮影される画像に次のような影響が発生してきます。
焦点距離が「短い」 | 焦点距離が「長い」 | |
ワーキング・ディスタンス(W.D) | 短い | 長い |
画角 | 大きい | 小さい |
歪み | 大きい | 小さい |
一概に正解はなく、それぞれのワークや検査詳細に応じて仕様を考慮する必要が有ります。
基本的には画像メーカが事前テストにて機器選定していますが、装置の構想や検査における注意点までは把握していない場合もあります。
そのため、設計者・ユーザの考えも積極的に画像メーカに伝えて選定精度を上げていくことをお勧めいたします。
ワークディスタンス
W.D(ワークディスタンス)はレンズの先端からワークまでの距離を指します。
同じ視野を撮像するにしても、焦点距離が短くなればW.Dが短くなり望遠レンズは長くなります。
装置サイズをコンパクトにするには短焦点レンズでW.Dを短くする方法が考えられます。
画角
画角はレンズから視野を捉える際の広がり角度を指します。
焦点距離が短ければ内側面を捉えやすい特性がありますが、左下図のように死角が生じるリスクもあります。
逆に焦点距離が長い場合は内側面は見れませんが死角ができにくい傾向となります。
歪み
焦点距離が短ければ歪みが大きくなり、長ければ歪みが生じにくくなります。
これはCCTVレンズを使用すると特に現れやすい現象です。
本来、直線形状の部分が歪んで見えてしまえば計測値のばらつきや、検出能力の低下などが起こり得ることがあります。
歪みによる計測能力が懸念される場合、特に計測目的であれば、CCTVレンズよりマクロレンズの方が歪みを抑えた設計になっているため画像メーカに相談する時点で伝えておくとより選定精度が増すでしょう。
![]() | 例:リテーナ検査の場合
|
以上のポイントを考慮すると、焦点距離が長めのレンズを選択すると良いでしょう。
その際はワークディスタンスが長くなるため、スペースを確保できるか設計時に考慮しましょう。
LED照明:明るさが足りているかを確認しよう
LED照明の形状や配置は、素材や欠陥の詳細・ワークの形状に応じて有る程度のセオリはありつつも、多くの場合画像メーカエンジニアの経験値と実証テスト結果に基づき構成されます。
単純な照明の種類や配置で考えると、数え切れないほどのバリエーションになるため、最適解は画像メーカ担当者の意見によるケースが多いようです。
設計者の皆さんが気を付けておくべきことは「照明の明るさ」です。
特に撮像時にワークが動いているか、静止しているかによって明るさ確保の難易度が変わります。
静止していれば、カメラ側で露光時間(光を取り込む時間)を長くすることで、明るさをカバーすることが容易です。
例えば、室内照明の環境下で仮に100msecも露光すれば、LED照明を使わなくとも室内照明の影響を受け画像全体の明るさが際立つ程度まで明るさを確保できます(実際の検査では、室内照明や外乱光の影響を受けないよう、カバーなどを取り付けます)。
一方で、搬送中に撮像する場合は画像のブレ対策のため、カメラの露光時間を短くする必要が有ります。
露光時間が短くなれば、画像は暗くなります。
照明の明るさを判断するには、まず露光時間を確認しましょう。
搬送速度・画像分解能が分かれば、必要な露光時間が算出可能です。
画像メーカには以下のポイントを問合せてみましょう。
- 必要な露光時間にしても明るさは確保できているのか?
画像メーカでの事前テストは机上で行われており、搬送速度(露光時間)が考慮されていないケースがあります。搬送速度を伝え、カメラの露光時間を設定して確認してもらいましょう。 - 確認した際、照明コントーラの調光値はいくつだったのか?
調光値とは、照明の明るさを調整するパラメータです。事前テスト時に調光値が最大値になっている時は注意しましょう。LED照明は経年で照度が低下するため、調光値の上げシロがないと照度低下時に再調整できません。(LEDの寿命は積算点灯時間4万時間で50%程度まで低下すると言われています。)調光値は最大値の5~7割程度が目安です。照明メーカによりますが、調光値は8bit(256階調)や1000階調が多いようです。
この2点を確認することで、選定したLED照明の仕様が適正かを判断することができるでしょう。
![]() | 例:リテーナ検査の場合
必要な露光時間を計算するため、搬送速度と画像分解能を確認します。
露光時間を計算すると、 補足 |
画像処理機:検査処理時間が間に合うかを確認しよう
画像処理機もカメラの仕様によって、機種が概ね決定されます。
というのも、カメラの画素数や台数に応じて内部処理に必要なメモリ容量が変わります。
画素数や台数が増えるほど、メモリや処理を高速化するためのCPUもあがるため価格が上がります。
画像処理機で確認すべきポイントは「検査処理時間」です。
要求タクトや装置構想により、検査処理に使える時間は決まってきます。
その時間内に画像処理を終え、結果を出力できるのかを確認しましょう。
事前テスト時の検査処理時間は画像メーカに確認すれば回答を得られるでしょう。
ただし、この時には事前テスト時の処理時間だけではなく、リスクも考慮したマージンも必要です。
現場に納入した後に、様々なバリエーションの欠陥が確認され画像処理設定を追加した結果、検査処理時間が間に合わなくなるのはよく聞くトラブルです。
経験値が豊富な画像メーカ担当者であれば、リスクも加味した提案をしてくれるはずです。
![]() | 例:リテーナ検査の場合 検査項目:外形寸法計測、表面の打痕・傷・汚れ これらの処理に実際にどの程度時間がかかっているか画像メーカに確認しましょう。
装置の検査処理能力:60個/分ですから、1個あたり1000msecの時間が使えます。 |
まとめ
いかがだったでしょうか。
画像検査は設計者の皆さんからすれば不慣れな要素が多いと思いますが、的を絞って確認すればリスクやコストは最適化でき、プロジェクトもスムーズに進むと思います。
今回の内容がみなさんのプロジェクト進行の一助になれば幸いです。