電気めっきはねじの表面処理の中で最もポピュラーな表面処理です。
溶融めっきや無電解めっき、塗装系表面処理に比べるとコストも低く、処理が施された状態で市販品として市場に出回っています。
めっき付きの市販品がない場合は、処理工場に依頼すれば必要な数量だけ処理することも可能です。
ただし、その際には気を付けなければいけないこと、禁止事項などがあります。
このコラムでは電気めっきの特徴や原理、注意事項などを解説し、電気めっきの依頼時に役に立つ情報をお伝えします。
電気めっきの原理
電気めっきはまずめっき被膜にしたい素材(亜鉛など)をめっき液に浸して水溶液化します。(電解)
その後+極にはめっきの素材となる金属、-極にはめっきをつけたい物(ねじなど)を繋げて電気を流します。(電流)
そうするとめっき液中の金属イオンが-極のほうへ移動し、製品の表面で電子を受け取ります。(析出)
電子を受け取ったイオンは金属に戻り、めっき被膜となってめっきをつけたい物全体を覆います。(還元)
電気めっきの特徴
電気めっきは施すことで耐食性と外観が向上します。
長所と短所をまとめてみました。
【長所】
●最もポピュラーな表面処理
「表面処理」「めっき」と聞くと、大抵の方が三価クロメートやユニクロなど電気めっきを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実際にねじの表面処理で一番多く使われているのは電気めっきです。
↓三価クロメート白のめっき処理済みの六角穴付きボルト
●処理工場が多く、価格が安い
全国に処理工場があり手配しやすいというメリットがあります。
価格も他の表面処理に比べると安価です。
●膜厚がコントロールできる
処理時間等で薄膜から厚膜までコントロール可能です。
【短所】
●一部の表面処理より耐食性が低い
塗装系表面処理などに比べると耐食性が低く、特に屋外使用や水回りなど、使用環境によっては効果が心許ない場合があります。
●RoHS対応していないものがある
六価クロメートなどRoHS対応していないものがあり、海外に輸出する製品などには使用できないことがあります。
●強度区分12.9以上の製品への処理は不可
水素脆化による遅れ破壊の可能性があるため、強度区分12.9以上の製品への処理はできません。
電気めっきの主な目的と種類
電気めっきは耐食性の向上(錆対策)と、装飾を目的として処理されています。
塗装系表面処理に比べると耐食性は劣るので、使用環境によっては心許ない可能性があります。
錆が生じている場合はその錆の種類を把握し、適切な表面処理を選ぶようにしましょう。(※)
また、先述の通り種類によってはRoHS対応していないものがあるため注意が必要です。
【RoHS対応している電気めっき】
三価クロメート(白・黒・黄色)
三価ユニクロ
ニッケル
【RoHS対応していない電気めっき】
六価クロメート(ユニクロ・クロメート)
※…錆についての解説はこちら
https://www.ikekin.co.jp/blog/1946/
ねじへの禁止行為
【ねじ頭部のヘッドマーク除去禁止】
ねじの頭部には強度区分や製造メーカーの識別記号などのヘッドマークが刻印されています。
それを除去してしまうとねじの機械的性質が分からない状態で使用することになるため危険です。
※ヘッドマークがある製品にめっきをつけた場合、基本的にはメーカーの保障外となってしまいます。
↓ヘッドマーク
【強度区分12.9以上のボルトへの電気めっき禁止】
短所のところでも紹介した通り、水素脆化による遅れ破壊が生じる可能性があるため、処理することが出来ません。
どうしても耐食性を上げたい場合はディスゴ、ジオメットなどの塗装系表面処理を採用します。(※)
※…塗装系表面処理についてはこちらのコラムをご確認ください。
https://www.ikekin.co.jp/column/8330/
水素脆化と遅れ破壊
水素脆化とは、水素イオンが金属の中に侵入して内部で分子になって空洞ができ、金属素材の柔軟性が失われ脆くなる現象のことです。
電気めっきは処理工程の中に金属表面についている錆びやスケールを落とすための酸洗い工程が必ずあります。
その酸洗い工程で発生する水素イオンが金属素材の中に侵入してしまいます。
これが原因で、締めたねじがある程度時間が経過したら突然破断する現象=遅れ破壊が生じることがあります。
ねじの使用中に遅れ破壊が生じてしまったら大変ですよね。
そうならないために、めっき後のねじを180~200℃で2~4時間過熱して水素を除去します。
これをベーキング処理と言います。
ただし、ベーキング処理をしても強度区分12.9以上の場合水素が抜けきらない可能性があるため、先ほど述べた通り強度区分12.9以上のボルトへは電気めっきをしてはいけません。
まとめ
電気めっき処理時の注意事項については、大抵の場合は工場や販売者が把握しているため、危険な状態でねじユーザー様の手に渡ることは滅多にありません。
しかし、なぜ強度区分12.9以上のボルトへ電気めっきが出来ないのか、三価クロメートと六価クロメートの違いは何なのか、ねじユーザー様が知識として知っておくことで設計時や調達時に困らずに済む場面もあるのではないでしょうか。
このコラムが少しでも皆様のお役に立てていますと幸いです。
電気めっきに関してご相談がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。