「ねじのゆるみ」
これは、ねじ・部品の脱落や折損の原因となり、機械の故障や異物混入などの問題に繋がります。
このような問題に悩んだことがある方は多いのではないでしょうか。
実際、ねじの販売・課題解決を生業としている私たちのもとには、ねじのゆるみに関するご相談が多数寄せられています。
このコラムでは、その「ねじのゆるみ」についてお話していきます。
本コラムにはトルクと軸力に関する知識を要する内容が一部ございます。
「ボルト締結のために知っておきたいトルクと軸力の不安定な関係」のコラムを読んでから、本コラムをお読みいただくことをお勧めします。
ゆるまないねじはない
ねじは多くの場合、2つ以上のものを締結するために使用されます。
強固な締結ができ、かつゆるめられる構造(※1)になっており、メンテナンス等で外すことがある箇所に使用されます。
このようにゆるませられることもねじの機能のひとつであり、「絶対にゆるまないねじ」は存在しません。
※1…ねじの構造についてはこちらのコラムをご参照ください。
ゆるみが原因で生じるトラブル
・食品缶詰に金属片が混入、約3万個を回収
・エレベーターのブレーキ故障による死亡事故
・配電盤から出火し特急列車で火災事故発生
・飛行機の主脚が出せず胴体着陸
これらは2000年以降にねじのゆるみが原因で起きた事故です。
ねじがたった1本ゆるんだだけで、場合によっては取り返しのつかない事故につながることもあります。
ゆるみとは何か? トルクと軸力
ねじ締結において最も重要なのは固定力である軸力で、ゆるみとは「軸力の低下」のことです。
適正な軸力: 締結体の強度 > 軸力 > 外力
外力とは、締結体にかかる振動や衝撃のことです。
締め付け管理はこのバランスをとることが目的ですが、軸力は測定する手段が少なくコストがかかるため、実際には上記の不等式にないトルクで締め付け管理することが一般的です。(※2)
トルク管理では軸力を適切に管理することが難しく、ゆるみという問題をなくすことができません。
※2…軸力を測定する手段としては、超音波軸力測定、DTIシステムによる軸力の可視化などがございます。
ゆるみの種類と原理
ゆるみの種類は大きく分けると2つあります。
それは「回転ゆるみ」と「非回転ゆるみ」です。
①回転ゆるみ
ボルト・ナットが戻り回転するゆるみで、致命的なゆるみにつながるケースが多いです。
締結体に外力が加わり、軸力が外力に負けてしまうことによって生じます。
▼回転ゆるみのメカニズム
締結体に対して外力が発生する環境のほうが一般的です。
外力が軸力を上回ると被締結物の間に動きが出始め座面が滑り、ナットを回転させ軸力を低下させていきます。
ねじの螺旋は斜面になっているので、座面が滑ると下り方向、つまりゆるむ方向に動いていきます。
一度ゆるみ始めると締結体の軸力が弱まり、さらに外力に負けやすくなって回転ゆるみが進行していくので、致命的なゆるみとなることが多いです。
②非回転ゆるみ
ボルト・ナットが戻り回転していないのに軸力が低下するゆるみです。
非回転ゆるみが生じる代表的な原因の一つとして「締結体の初期なじみ(初期へたり・初期ゆるみ)」があります。
平滑に見える金属の表面も凸凹しているので、締め付けた時にボルトの座面やねじ部など接触面で軸力による圧縮で凸凹がなじみ、わずかに厚み(締結長さ)が減少することで軸力が抜けてしまいます。
なじみ量は締結長さに関わらず同じですが、締結長さが長いほどボルトの伸び量が増えるので、なじみの影響による軸力低下が少なくなります。
以下は、初期なじみを簡単に説明した図です。
(例)同じ軸力・異なる締結長さで、共になじみで失う伸び量を1としたとき
締結長さが同じでも締結部材が増えると接触面が増えるため、よりなじみが発生しやすいです。
これが初期なじみで、どんな締結体でも起こるゆるみです。
その他にも、被締結物の陥没、摩耗によるへたり、温度変化などが非回転ゆるみの原因になります。
まとめ
ここまでねじのゆるみとその種類についてお話してきましたが、回転ゆるみ、あるいは非回転ゆるみのどちらか一方だけが起きている状況というのはまずありません。
ゆるみを対策するにはまず主な原因の種類を把握すること、そしてその種類と締結条件に合った改善策をとることが大切です。
間違った対策は意味をなさず、場合によってはゆるみの原因となったり、あるいは状況を悪化させることもあります。
回転ゆるみ、非回転ゆるみ、それぞれの対策方法を資料にまとめましたので、参考にしていただけますと幸いです。
ゆるみの主原因の特定、対策方法の選定についてはイケキンにご相談ください。