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技術コラム

【2024年最新】工場自動化レベルを徹底解説:失敗しない自動化計画の立て方

2024.09.20
現役設計者の生の声

こんにちは、りびぃです。普段は生産設備の設計エンジニアとして現役で活動しています。

近年、人手不足と技術の進歩により、さまざまな生産工場で工程の自動化・省人化が啓蒙されるようになってきました。

特に最近は「製造現場の無人化」を想定し

  • 3Dデータと実際の装置の動きや状態を連動させることにより、遠隔での状態監視や予知保存・生産シミュレーションが可能になる技術(デジタルツイン)
  • AMR(Autonomous Mobile Robot、自立走行搬送ロボット)や産業用ロボットと、AI技術を組合わせた知能ロボット化

などの技術が展示会などで公表されております。

実際、自動車業界などのような工業製品や物流業界の現場では、特に自動化が積極的に行われているような印象を受けます。

このような流れを受けて読者の方々の中には

  • 「うちの工場も積極的に自動化すべきなのではないか?」
  • 「競合他社におくれを取らないためには、どのレベルまで自動化すべきなのか?」

と考えている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし実は「工場の自動化をどの程度まで進めるべきか?」については、その工場の事業や現場ごとに異なりますし、その上で慎重に判断し、かつ計画的に遂行していく必要があります。

中には「自動化の失敗例」というのも存在し、例えば「せっかく数千万円かけて導入した生産設備が、1年もたたないうちに使われなくなってしまった」などという話も珍しくありません。

その判断基準として便利なのが「工場自動化レベル」という指標です。

この指標は特に公式で決まっているようなものではなく、またレベルの区分けやその内容に若干のばらつきがあるのですが、この指標はいくつかのメディアにて示されている指標になります。

おそらく自動運転車の「自動運転レベル(国土交通省,「自動運転のレベル分け」より)」を工場自動化へ応用していると思われるものが多いのですが、工場自動化を計画・推進していくうえで非常に参考になる指標となります。

今回紹介する工場自動化レベルは、私の知識・経験をベースにアレンジをしたものですが、きっと自動化を検討される際に役立てることができると思います。

そこで今回は、工場自動化のレベルについてと、みなさんの工場にてどの程度自動化を進めていくべきか、どのように自動化を進めるべきかについて、そのヒントになる知見を紹介していきます。

工場自動化のレベル

この記事では、工場自動化のレベルを以下のように区分けして解説をしていきます。

レベル内容
レベル0手作業
レベル1治具化・作業支援
レベル2半自動化・機械との協働
レベル3工程単位での自動化
レベル4複数工程・工場規模での自動化
レベル5完全自動化

レベル0:手作業

このレベルでは、生産工程のほぼすべてが人の手によって行われます。

例えば製品の組立てを例に挙げると、

  • 作業員が作業台の上に製品を人力で載せる
  • トレーからボルトを手に取る
  • ねじ締めようの工具を取る
  • 製品を抑えながらすべての箇所にねじを締めていく

などといった作業現場になります。

    手作業の生産現場のメリットといえば「作業の柔軟性が高い」という点です。

    例えば、

    • お客さんからの注文がいつ、どの程度来るかが予測できない
    • 製造する製品が短期間限定、あるいは一品もの(1個しか製造しない製品)である
    • 一つの作業場で複数製品の組立を高頻度に切り替えながら行う

    というような多品種少量生産の製品を製造する場合においては、「工程の配置・レイアウト」や「人員の数や配置」などを臨機応変に対応させられる手作業の工程が望ましいです。

    また「工程を立ち上げるまでの費用を抑えることができる」という点もメリットして挙げられます。

    ですから「まずは小ロットだけ製造して、新製品の試作としてリリースして市場の反応を見たい」などの場合に有効的です。

    ですが一方でデメリットが多数あります。

    1つ目は「品質のばらつきが大きくなる」という点です。

    手作業ですとどうしても「各作業員の感覚・勘・経験」に非常に強く依存することになります。

    ですから

    • 熟練度が異なる作業員が間で品質がばらついたり、
    • 作業員の疲労の蓄積度によっても品質がばらついたり

    というリスクが高くなります。

    2つ目は「生産量に限界がある」という点です。

    多くの場合において、機械と比較すると人間の作業スピードは劣ってしまいます。

    また作業員の方々の疲労や安全性を考慮し、決められた勤務時間内および適度な休憩を入れる必要があります。

    そのため、生産量を増やすためにはどうしても多数の人員が必要となってしまいます。

    3つ目は「技術伝承の課題がある」という点です。

    手作業では各作業員の「感覚・勘・経験」に強く依存しています。そのうえで、多数の作業に柔軟に対応できるスキルが求められます。

    そのため、例えば新しい作業者に作業のコツなどを教えようとしても、一人ひとりへ実際に見せたり、現場指導しながら教える以外の方法がほとんどありません。

    一方で機械化させようにも、言語化・数値化がされていないことから、機械化することが難しい作業もいまだ存在します。

      レベル1:治具化・作業支援

      このレベルでは、手作業をベースとしつつ専用の治具や工具・ツールを導入して効率化を図ります。

      例えば、

      • 専用の治具にワークを乗せて安定させた状態で作業する
      • そのワークのボルト締め作業に特化した専用工具を使うことで作業の短時間化をする
      • 重量物を搬送する際にバランサーを使用することで省力化する

      などが挙げられます。

       

      ジグを導入することによる恩恵として、

      • 品質のばらつきをある程度の抑制
      • 作業効率のある程度の向上
      • 作業負荷のある程度の削減

      などが挙げられます。

      またジグや作業支援の道具などは、機械導入と比較すると初期コストが安く済むという点もメリットとして挙げられます。

      そのためレベル0の手作業からのレベルアップを検討する際に、比較的移行しやすい傾向にあります。

      ただし、

      • 人による操作が主体であるため、熟練度による作業スピードの差が大きく、生産計画等には活かしづらい
      • 外観検査のOK、NGなどのような人の判断による作業はばらつきが発生する
      • 人手での作業が主体であるため、生産量を圧倒的に増やせるわけではない

      などのデメリットは存在します。

      もしこのレベルの範囲内で生産性を向上させるのであれば、IE(インダストリアル・エンジニアリング)という「業務改善を行う技術」について学ぶことが重要です。

      レベル2:半自動化・機械との協働

      このレベルでは、作業の一部のみが自動化され、それ以外は作業員が協働して作業を行うといった段階です。

      例えば、

      • 作業員が検査台にワークをセットしてスタートボタンを押すことで、画像センサによる寸法検査ができる
      • コンベヤで搬送されてきた野菜を作業員が取出し、大きさ別に出荷用段ボールへ入れる

      などがこれに当たります。

      これまで人手で行っていた作業の中でも、特に「何回も同じ作業を繰り返していた作業」についてうまく機械化させることができれば、作業者の負担を大きく減らすことができます

      加えて、機械化された作業はほぼ同じ動作を正確に行うことができますので、作業のクオリティも維持しやすくなっていきます

      中には「機械の導入」となるとコスト面で身構えてしまう方もいるかもしれませんが、このレベルの範囲であれば機械メーカーのカタログ品で購入するだけで達成可能な場合もございます。

      そういったことから、町工場規模の工場でも半自動化が推進されていることが多いです。

        一方で、

        • 数値化やマニュアル化が難しい高度で繊細な作業
        • 臨機応変な対応が求められる作業

        についてはいきなり機械化することが難しいので、人手で作業をしていく形で運用することが多いです。

        また、このレベルではまだまだ作業員による作業の依存度が高いので、生産量もある程度までしか向上させることができません。

        その上で、作業員の誤操作により作業者がケガをするリスクがある機械を導入する際は、その安全対策をしっかり行うことが重要です。

        レベル3:工程単位での自動化

        このレベルでは「一つの工程」の単位で機械による作業自動化をしていくという段階になります。

        例えば、

        • 産業用ロボットを使って投入口からワークを設備内へ投入し、自動でワークを加工したのち、自動で設備外へ排出する装置
        • パーツフィーダへボルトを供給しておくと、ボルトが自動組み立て装置内へ搬送され、組み立て装置が製品の組立を自動で行う装置

        等のように、本格的な機械が導入されていくことになります。

        このレベルの自動化では、ワークの投入部も自動化されるケースも多く、これにより投入されるワークが供給切れを起こさない限りは24時間機械を稼働し続けることができます。

        そのため、大きな省人効果が期待できる上に、生産量をかなり増大させることもできます。

        また、

        • 機械がプログラムされた通りに動作をするため、作業者の熟練度がほとんど不要になったり、
        • 機械による正確な繰返し動作により製品品質が大きく向上したり、

        という効果もあります。

        こういった特徴であることから、年間を通して数多くの製品を製造する場合において非常に有効的です。

        ただし、このレベルの自動化導入となりますと、ハードルが一気に上がってきます。

        例えば導入する機械については「メーカーのカタログ品を購入して完了」というケースは非常にまれで、基本的には周辺機器とのつなぎ合わせ等も含めて、その生産現場専用に設計・カスタマイズをする必要があります。

        汎用性の高い産業用ロボットを導入するにもマニピュレータの開発が必要になったり、ロボットの制御について開発が必要になってきます。

        そのための「設計開発費」がコストとしてかかってくるようになります。

        その他にも多方面で専門的な知識やスキルが要求され、例えば

        • 機械に要求する機能や仕様を言語化・数値化すること
        • 機械の設置スペース・作業員の作業性・配置・動線などを考慮すること
        • 安全性を確保するための装置や設備を選定・配置すること
        • 機械に不具合が発生した際に、その原因を特定し復旧すること
        • 機械のメンテナンスができること

        などが要求されます(もちろん程度にもよりますが)。

        ちなみに、このレベルを難なくこなせるような現場では、スキルのある生産技術・設備設計・設備の製造組立・保全などのエンジニアたちが勤務しており、また社内にエンジニアを育成するための風土、実績やノウハウ、設備や製造プロセスの開発の場などが整備されているなど、人材への投資が積極的に行われています。

        一方それが難しい場合は、各業務・技術を専門としている企業がございますので、そちらへ相談・一部外注するという方法もよく取られます。

        また、工程単位での自動化をすると工程の柔軟性が非常に小さくなります。

        こういった中である程度の柔軟性を確保するための策として、

        • 治具やマニピュレータの形状を工夫することで他機種の製造に対応したり
        • ジョブチェンジ(段替え)やツールチェンジにより他機種の製造に対応したり、

        などの工夫をしている現場も非常に多いです。

        レベル4:複数工程・工場規模での自動化

        このレベルでは工程間の連携も含めて、製造が自動的に行われるようになります。

        例えば

        • 自動加工機による加工が完了したら、そのまま塗装工程で自動塗装を実施したり、
        • 自動組立機による組立が完了したら、そのまま自動で検査工程に輸送し、自動検査を実施したり、

        といったことが可能になってきます。

        また各工程の機械を工場内のネットワークに接続することによって、

        • 生産のスケジューリング・在庫管理・トレーサビリティなどの生産管理(通称、MES: Manufacturing Execution System)
        • 生産中の機械のアラーム管理や遠隔制御などのプロセス監視と制御(通称、SCADA: Supervisory Control And Data Acquisition)

        といった業務をPC上で一括管理することができるようになります。

        生産ラインの大きさが東京ドーム〇個分といったような巨大なものだとしても、このようなシステムを導入することで、少人数で生産のオペレーティングをすることが可能になります。

        工場規模にまで自動化が達成されている現場では、工場内にオペレータが一人しかいないというケースも聞いたことがあります。

        ただし、連続工程で自動化するためには「A工程からB工程までを搬送装置で橋渡しする要領でつなげていくだけ」などという単純なものではありません。

        例えば、

        • 工程間でワークの製造データを受け渡しする仕組みの構築
        • 機械を動かすOSやネットワークが工程ごとで異なる場合にそれをうまくつなげる技術
        • A工程の複数号機とB工程の複数号機とをうまく連動し、搬送の合流・分岐を行う仕組みの構築
        • 工場レイアウトの再検討

        などが必要になってきます。

        こういったことから、レベル3の「工程単位での自動化」よりさらに高度な各専門知識・スキルが求められるようになります。

        その上で工場規模で自動化を達成させるためには、各工程レベルのシステムの他にも工場全体を統括するシステムを導入する必要があるため、求められるITシステム構築のレベルも上がっていきます。

        こういった理由で、機械導入の費用やメンテナンスのコストも増大していきます。

        レベル5:完全自動化

        このレベルは生産設備の情報があらゆる工程やフェーズと結びつき、それが応用されている状態です。

        昨今さまざまなメディアでDX(デジタル・トランスフォーメーション)が謳われておりますが、そのレベルではDX推進が必須になってきます。

        例えば、導入される機械のアクチュエータやガイドにセンサを設置しておくことで、機械が不具合を起こす前にメンテナンス推奨のアラームを発し、メンテナンスコストを最小限に抑えることが可能になります(予知保全)。

        またこのアラームの情報に連動して

        • 設計へのフィードバックによる、製品改良・設備改善
        • 機械に設定するパラメータの推奨値の提示
        • 経営計画、設備投資計画への応用

        など、他の工程や部署へも情報展開し、業務効率化・品質改善・ダウンタイム削減を推進していくことができます。

        またデジタルツインという実物の生産ラインと、その3Dデータとで動きや情報を結びつけることによって、

        • リアルタイムでの情報収集
        • 異常発生箇所の即時特定
        • 生産設備のパラメータ変更や改造の影響のシミュレーション

        など、デジタル技術の強みを生かして業務効率を向上させることが可能になります。

        さらに高度化していくと、外部企業との連携し、サプライチェーン全体の規模で自動化が行われていきます。例えば

        • 製造メーカーと原材料の仕入先とが連携することで、原材料の在庫に応じて自動発注・自動配送がされたり、
        • 物流倉庫と連携することによって、在庫数に応じて生産量を自動で調整したり、

        などが可能になるかもしれません。

        もしこれが達成されるとなれば、製造現場に人材が常駐する必要はほとんどなく、保全・保守の場合のみ人材が現場で作業すると言われています。これにより人材不足の解消・人件費削減効果も高くなります。

        ただし、外部企業との連携をするには、あらゆる領域においての標準化が必須であることから非常に難易度が高いです。

        私の知る限り、サプライチェーン全体にまで自動化が進んでいる企業は未だ存在していないですが、特にヨーロッパでは企業間連携の枠組みが形成されており、完全自動化が積極的に推進されているようです。

        自動化レベルの移行は一歩ずつが基本

        自動化レベルを移行していくうえでまず重要なことは「自動化のレベルは必ずしも高い方が好ましい訳ではない」という点です。

        確かに自動化レベルが低いままですと

        • 人手不足
        • 品質のばらつき
        • 作業負荷の増大
        • 作業員の安全衛生管理の必要性

        等の問題に直面します。

        しかし一方で高い自動化レベルとなると、

        • 機械の設置スペース確保の必要性
        • 設備導入費・ランニングコストの増大
        • 各種専門知識・スキルの必要性
        • 生産ライン変更の柔軟性低下

        等の問題の影響度を考慮していかなければなりません。

        例えば自動車産業や物流業界であれば、高い自動化レベルへの移行のメリットが非常に大きいため、現在進行形で自動化レベルの移行が行われています。

        一方で、年間数台しか作らないような製品となると「その製品の製造においてデジタルツインが必要か?」と言われればメリットがほとんど見出せない可能性が高いです。

        自動化レベルの引き上げには「需要の予測」も非常に重要な観点になります。

        せっかく自動化レベルを引き上げたとしても、間もなく製品需要がほとんどなくなったことで「せっかく数千万円かけて導入した生産設備が、1年もたたないうちに使われなくなってしまった」となってしまった事例も聞いたことがあります。

        「製品を作るほど赤字になるし、かといって機械を使わずに置いとくだけでも維持費がかかる」という板挟みな状態になってしまいます。

        また、仮に自動化のメリットを見出し、そのためのリソースを揃えることが可能であると判断できたとしても「現在現場で働いている従業員を削減できるか?」という問題もあります。

        例えば、

        • いままで何十年も作業員として勤務してもらっていた人を契約解除するのはなかなかできない
        • 従業員たちから仕事を奪ってしまったら、彼らが生活に困ってしまう

        と考える現場も存在すると聞いたことがあります。

        現在でも「AIが人間の仕事を奪う」なんて言われているのがその典型例です。

        そのような現場で自動化レベルを引き上げていこうとするならば、

        • 自動化することが当分難しい他の業務について徐々に手伝ってもらうようにする
        • 新しいスキルや資格を取得するよう促す

        などの工夫を、ある程度時間をかけながら自動化の検討と同時に行っていくことが重要であるかもしれません。

        筆者プロフィール

        りびぃ
        「ものづくりのススメ」サイト運営者

        2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。

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